空飛ぶ人面岩

■未来惑星ザルドス■

一本の映画の寿命がいったいどのくらいあるものなのかは判断が難しいところだが,最近DVDの安価な旧作リリースで認識を新たにすることが多くなった。安いから気軽に買ってひとり深夜の真っ暗な部屋で見ていると思わず引き込まれてしまう,そんなことがけっこうあるからだ。

ああ,これたったの千円で買えちゃったけど,もうけたなあ。そんな風にうれしくなるんだね。ということは普段思っているより作品寿命って長いのかもしれない。

今はもうたいていのアイデアは出尽くしちゃった時代なので,いつの時代の映画を見てももはやどれが本家でどれが模倣だかわからなくなりつつある。そんな時にこっちの気持ちをぐいっと惹き付けてくれるのは作り手の熱気だとか思い込みの激しさだとかの普遍的な部分だ。技術的には今より素朴でも気にならない。映画を楽しむことの本質はそういうところにはないのだと気が付くからだ。

もう30年以上前(今は2005年6月)の作品だけど「未来惑星ザルドス」のDVDが目に留まったので買ってみた。前に見たのがいつのことだかもう覚えていないので新作同然だったけど、いやー、思いがけず中身の詰まった映画だった。とても106分とは思えなかったな。

封切りの頃「SFマガジン」のレビューで取り上げられていた記事の記憶がなぜか今でも思い浮かぶ。いちばん印象的だったのは60年代SFの,いろんなことを試してやろうという意識がとても濃厚に詰まっているということだ。確かにあのころのSFの雰囲気が色濃く出ている。

ロートルSFファンとしては70年代初頭あたりのSF好きな人間の「おれはこういうのがやりたいんだー」という気分が痛いほどよくわかるよ。

文明滅亡後の地球でその遺産を独占して不老不死のユートピアに生きている人々。そこに外部から一人の野蛮人が紛れ込んだことから世界は崩壊と新生の道をたどり始める……というお話。ショーン・コネリーが腰巻きひとつで奮闘する姿に「あっちの大物はこういう役もやるのか」と思った記憶がある。

たったの100万ドルで作られたと聞くと,やっぱり俳優の力は大きいなーと思う。ストーリーは錯綜してて一般客にはたぶん難解。特に後半の展開は「プリズナーNo.6」みたいで,こういうのに慣れてる人には「うんうん,わかるよ」とにやにやしてもらえるだろうけど劇場で大喜びしたお客さんは少数派だったんじゃないかな。

そして「ザルドス」といえばなんといっても空を飛んでくる人の顔をした巨大な岩だ。映画を見たことのない人でもあれだけは覚えがあるかもしれない。この映画のシンボルである。今の技術からすると撮影はかなりプリミティブなものだったらしいが,そうとうに大きな模型を吊るしてやったとのことで,そのスケール感は立派だと思う。DVDではとりあえず映画冒頭としておこうか。

あんまり高い評価をもらった映画じゃないという覚えがあるけど,今回久々に見てまだまだ十分に生き延びている作品だと思った。それどころか,昔より面白いと感じた気がする。シャーロット・ランプリングの目がすごくきれいで印象的だった。

ジョン・ブアマン監督のコメンタリーがすごく面白くて,映像技術自体はすぐに古びるけど作り手の野心や意気込みにはまた別の命があるって実感できたな。旧作もどんどん見直したいと思ったよ。

未来惑星ザルドス FXBHA-1208
発売元(株)20世紀 フォックス ホーム エンタテイメント ジャパン