若葉マーク時代の特撮の父

■幽霊列車■

ひところパイオニアからリリースされていた特撮映画<秘蔵>シリーズは,ジャンクの山に埋没してしまいそうな名品珍品を発掘してくれた希有な企画だった。マニアや物好き以外はハナもひっかけないタイトルばかりだが,映画史の中に消えていった無数の作品群の,えもいわれぬ香りが実によかった。チープなものが多いが,ある種の"失われた世界"である。

当時これらの作品に関わった人たちの青春みたいなものさえ感じられてなんだかこちらも口元が優しくなってくる。ジジ臭いセリフだと思うが。

そんなシリーズの中でも異色なのが「幽霊列車」だ。1949年夏公開というからちょうど50年前の作品である。山奥の寂しい駅で一夜を過ごすことになった16人の男女。その駅では雨の夜,ひとりでにシグナルが鳴り,時刻表にない列車が通過するという。そしてその列車を見たものには死が……というお話。

この映画の特異なところは,メインキャストがすべて当時の人気コメディアンたちであったということ。柳屋金語樓,エンタツ,アチャコといった面々がシリアスにスリラーをやるのである。加えて特撮シーンを担当しているのが若き日の円谷英二であるという,これはマニアならずとも押さえておきたい1作である。

日本特撮の父,円谷英二の名はすでにその筋のマニアたちには神格化されているが,当然のことながら偉大な氏にもルーキーの時代はあったということだ。

しかし円谷特撮といえば東宝映画と来そうなもんだが,これは大映作品。日本の特撮ラインからすれば有史以前とでも呼ぶべきレアものだろう。作中で列車が脱線して谷底へ落ちるシーンがあるのだが,ここに若き日の円谷英二の仕事を見ることができる。LDではサイド1の21分30秒である。

今見ればどうということもない画面だが,我が国近代特撮のルーツ的ワンショットとして一度は見ておきたい映画だ。後半に至ってスリラーよりスラップスティックの色合いが強くなるが,踊る狂女や列車でのアクションなど展開もなかなか八方破れだ。

中古市場では容易に入手できるのでぜひともコレクションに加えよう。

幽霊列車 PILD-7088
発売元(株)パイオニアLDC