藤原先生の「適当」

■ホーホケキョとなりの山田くん■

スタジオジブリのDVD第1弾が「ホーホケキョとなりの山田くん」と聞いてううむこの選択は,と思ったものだが,なにしろ原作の方はほとんど読んでなかったし,劇場公開でも見逃してしまっていたのでとりあえず買ってみた。

見終わってもう一度ううむとうなってしまった。これは絶賛派と否定派に別れるのも無理はないなあというのが正直な感想だ。

僕の中にもその両方の感情がわき上がってきたからだが,確かにこの絵柄をこのタッチのまま動かしている恐るべき技術(もう凄いのひと言)や,声をあげて笑ってしまった絶妙のタイミングなどには素直に感心してしまう。

と同時に,あれほどの膨大な予算と手間暇をつぎこんで作るべき映画だろうか,という疑問も正直否定できない。40分の中編ならともかく長編でやるかねーという感想もあると思う。でもまあ,あんなにお金使ってというのは余計なお世話なんだろうな。

先にも書いたように,見ていて思わずわはははと笑ってしまう場面がいくつもあった。ということは出来としては成功しているわけだ。興行的には関係者一同がっかりという結果だったらしいが。

しかし,見ていて笑えるシーンがいくつもあったのは確かだが,実はよ〜く考えないと何がおかしいのかわかんないという部分もあった。芸で笑わせるタイプとでも言おうか,非常に日本的な庶民生活のあれやこれやの経験値がものをいう映画なのだ。

よってそういった風俗がどんどん廃れていっている今の人々にとっては自分の中の「日本的庶民度」を計る絶好のバロメーターにもなる作品である。思い当たる節の多い人ほど平均的日本人の古き良き血を受け継いでいると言えるかもしれない……なんて大げさなもんでもないか。

さて,予告編の時から印象的だったシーンがいくつかあるのだが僕が一番好きなのは藤原先生のあの「適当」のくだり。

セリフもちょっとだけだから矢野顕子の声優ぶりをどうこういうほどのことはない(でもなかなかいい感じだった)けど,なんか間の取り方がよくて

藤原先生「これです」
生徒たち「おおー」
藤原先生「適当ぉ」

この短いやりとりがとても快感である。ここでの適当というのはギャグとしてなら「要領のいい,いいかげんな」という意味だろうが,先生の笑顔を見ると第一義としての,つまり「ほどよい」の方であろうかとも思う。この感覚がこの映画全体の雰囲気をよく表しているような気がする。

DVDではチャプター85だ。なんやかんや言ってしまったが,こうして自宅でじっくり見る方が細かい発見があってこの映画にはふさわしいかもしれない。音声や特典映像,オマケの「ホーホケキョとなりのののちゃん」など思いのほか充実したソフトになっている。

「ホーホケキョとなりの山田くん」 VWDZ8030
発売元(株)ブエナビスタ ホームエンターテイメント