侵入するカメラ

■宇宙戦争(2005)■

ハリウッド映画を見ていていちばん羨ましいと思うのは「物量が使えるっていいなあ」と思う瞬間だ。言い替えれば「お金があるっていいなあ」ということなんだけど,これを言っちゃうとミもフタもないので言葉はまあ選ばなくてはね。

でも娯楽作品というのはやはりデラックスに越したことはない。問題作や芸術作品にはまた別の力点があるけど,エンタテインメントは華々しい消費の美学で成り立っている部分がある。予算があるのはよいことだ。

この夏ヒットした(今は2005年秋)リメイク版の「宇宙戦争」をDVDで見ながら改めてそう感じた。ハリウッドの抱えた問題はいろいろあるけど,ハリウッドでないと実現できないものはやはりある。僕は半世紀前(1953年だよ)の「宇宙戦争」もとても好きだしあっちをオリジナルだという気持ちは今でも変わらないけど,このスピルバーグ版もさすがに今どきの出来映えで面白かった。

比較してもあまり意味はないけど,両作の視点の違いははっきりしていたと思う。旧版は個人より戦争全体を描いた大状況ドラマだったけど,今作は主人公周辺に焦点を絞って展開するところがポイントだろうか。爆撃機に核爆弾,バリヤーの威力と地球側戦力対異星人メカの激突といった派手なところは旧作の方が目立っていたかな?

新作の方は映像はリアルだけど見せ場もちょっとさりげなくて,やっぱりアメリカ人は自分たちが徹底して蹂躙されるという展開は体質的に無理なんだろうなと思った。日本だと被虐大好き民族だから悲壮にも踏みにじられる自分たちに酔ってしまう話が好きだけどね。

だから新旧比較ということでは昔のあのシーンこのシーンがどうアレンジされているかという方が興味深かった。おお,なるほどこうきたか〜という感じ。スピルバーグ監督はなかなかよく旧作ファンにも目配りしてるなと思ったシーンがいくつかあった。

特に旧版でもスリリングなシーンになっていた廃屋の中に異星人の移動カメラがにゅうっと侵入してくるシーン。新作では最新技術を使ってだいぶ膨らませてあったね。ちょっと「アビス」を連想した人もいたかもしれない。DVDではチャプター17,時間にして80分50秒あたりから。

CGだと物理的制約がないからこうした触手っぽい描写は進歩したなあと実感できる。ここはぜひ旧版と併せて見比べてみたいところだ。

それにしてもアメリカ映画ってどうして離婚した,もしくは離婚の危機にある夫婦が事件を乗り越えて丸く収まるという展開が好きなんだろうねえ。トム・クルーズの父親ぶりはハリウッド流シナリオ作法の典型みたいな感じでパターン崩しはハリウッドではなかなか難しいと見た。

ラブラブ夫婦が力を合わせて事件解決の大満足展開ってのをたまには見せてもらいたい気がする。でもまあこれはまた別の話か。

宇宙戦争 PPA 111158
発売元(株)パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン