メリーゴーラウンド住宅の住み心地

■キートンのマイホーム■

まぁた古い映画持ち出して!と言われそうだが,懐古趣味ではないのでご勘弁。古いものの良さもわかる歳になったと自分では喜んでいるんだよ。

サイレント時代の喜劇王バスター・キートンの短編に「キートンのマイホーム」という作品がある。ビデオによっては違う邦題がつけられているのでここは原題の「ONE WEEK」としておこうか。新婚夫婦の一週間のドタバタを描いたものすごいアクション映画である。冗談ではない。

1922年の作品なのだが,当然この時代には今風のSFXなど存在しない。アクションもスクリーンで見るとおりのことを人間がこなさなくてはならない。そこで最初に見たときの感想は

ひえ〜危ねえ〜〜〜!

であった。トムとジェリーみたいなアクションを生身でこなしているのでもう危ないのなんの。まさに身体はってます,という感じだ。昔の喜劇役者のアクションというのは凄いとは聞いていたのだが,これを見て心底納得した。以後キートンものをいろいろ集めることになったのだが,見れば見るほど唸ってしまう。

新婚祝いに組立式住宅を贈られた夫婦。番号順に組み立ててくださいという説明書付きだ。で,それを組み立てていると花嫁に惚れていたある男が嫉妬のあまり部品の番号をこっそり書き換えてしまう。そこで完成した家は……というお話だ。結婚から新居の組立,そして新築披露という一週間の間のドタバタが描かれるのだが,21世紀の今見てもひっくり返って笑ってしまう面白さである。

タイミングをひとつ間違えれば大惨事は必至という破壊的なギャグ,それをこなしてしまう俳優たちの芸がすばらしい。女優だって例外ではない。見ているこちらの腰が浮いてしまいそうな危ないアクション連発なのだ。

この映画では夫婦で作った組立式住宅がギャグの中心なのだが,何しろ組み立て損なっているからまともな家ではない。ついには嵐の強風によってメリーゴーラウンドのようにぐるぐる回り始める始末。実際に小屋ひとつ回している撮影も撮影だが,その回転する家に絡んでいく役者たちのアクションがまた凄い。

僕が買ったキートンとロイドの5作品を納めたLDでは,ディスク2のSIDE2,チャプター8の49分06秒あたりから。サイレントらしいチャカチャカした動きのせいで一段とスピード感が出ているので「おい,ホントに大丈夫なのか」と思わずつぶやいてしまいそうになる。こんな場面で使う表現ではないかもしれないが,もしかするとこういうのを神業と言うのかもしれない。

短い作品なのだが,冒頭の結婚式の何気ないシーンからラストまで実に面白くて密度の高い映画である。この回転する家の場面だけではなく,あちこちに命がけのギャグが続出する。ラストの列車がらみのシーンなんかもう!

でも見ているとこの災難にあった新婚夫婦,意外とたくましくて古き良き時代のアメリカンな良いカップルに見える。本筋には関係ないけど実はその楽天的な味わいが好きなのである。

古い時代のフィルムだが,こういうものを知らずにいるというのはちょっともったいないよ。ビデオでも借りてきてどひゃーと言いながら堪能しよう。

キートンの大列車強盗/他 IVCL-10035
発売元(株)アイ・ヴィー・シー