調和と銃声

■WATARIDORI■

最近見た映画で印象的だったもののひとつが「WATARIDORI」だ。劇場ではなく自宅のスクリーンでの対面だったが,それでも灯りを落とした部屋で静かな,しかし緻密に描かれた鳥たちの旅路を目にして,様々な思いが心の中をすべってゆくのを感じた。

優れて詩的なドキュメンタリー……製作過程を思えば完全なノンフィクションと言うよりゆるやかな作為のあるフィクションに近いのかもしれない。しかし,押しつけがましい視点ではなく,限りなく空や大気や神のまなざしに近づけようという作りがすばらしいではないか。

澄み切って,壮大で,高品位で,芸術的で,美しくて,志の高い仕事だ。ドキュメンタリーもフランス映画になると格調高いもんだなあと妙に感心してしまう。

飛ぶというイメージ,羽ばたく鳥の翼のイメージには人間の心を刺激する何かがあるのだろう。それもこれほどまでにすばらしい映像で見せられると尚更だ。何と言ってもあの飛ぶ鳥たちの超近接撮影の映像,初めて見るようなイメージがあちこちにあって本当にすごいと思う。

撮影の舞台裏を聞いてなるほどと思ってはみても,現実の作品としてこれを実現したスタッフの気力(そう,まさに気力としか言いようがない!)には恐れ入る。

本能の命ずるままに遙か彼方を目指して飛ぶ鳥たち。その姿を眺めているうちにいつしかこちらの心も漂い出して,あれこれ思い出や記憶の扉に手をかけるような,そんな気分にさせる力がこの映画にはある。

だから,そこに響く銃声のなんと衝撃的なことか。

いかにもフランス映画って感じのナレーションに控えめな音楽とすばらしい映像で鳥たちの旅路をながめていると,うっとりした気分になっていくのだが,いきなりそれを断ち切るような銃声が響く。鳥たちの旅は数々の試練に満ちているということなのだが,そしてハンターの存在もそのひとつなのだが,ここで響く銃声の唐突で容赦ない不自然さにはどきんと跳ね上がるようなショックを覚える。落ちていく鳥たちの姿に一瞬呆然としてしまった。

DVDではチャプター11の55分05秒あたり。これも作り手の意図ではあろうが,完全に無防備でこの世界にひたりきっていたのでまさに「!」であった。このあたり,アメリカ映画にはなかなかできない非情さかもしれない。

雄大な風景と飛翔する鳥たちの姿には神の意図する調和のようなものさえ漂っているのだが,そこに登場する人間の姿が"異物"に感じられるのは残念なことだ。その手にあるのが銃ではなく弓のままであったなら,人もその調和の一部でありえただろうに。そう思う。

WATARIDORI コレクターズ・エディション PIBF-7610
発売元(株)パイオニアLDC/日本ヘラルド映画