vieのような花火

■野蛮人のように■

薬師丸ひろ子の「野蛮人のように」については以前にも書いたので,ここであらためて同じことは言わないけど,ホントにチャーミングな佳作である。

昭和61年正月作品。うーん,歳月の過ぎるのは夢のごとしである。もうそんなになるのか。正月映画にこんな企画を持ってくる余裕は今の邦画界にはないだろうなあ。

全体にソフトフォーカスのかかった撮影が独特の雰囲気を出していて,つかの間のおとぎ話をいっそう引き立てている。なんといっても光が美しい。ネオン,照明,自然光,そして花火。この映画の中で重要な小道具になっているのが花火だ。

中でもヒロインがつぶやく「vieのような花火……」というセリフ(※)が記憶に残る。vieというのは英語でいえばLIFE。つまり人生のような花火というなかなかしゃれた,でもちょっと哀しい韻を含んだセリフである。

これは作中2度登場するが,ここで取り上げるのは2度目の方。謎の黒服に追いかけられるヒロインが地下鉄のホームにまで逃げ込んだあげく,走り込んでくる列車の直前に飛び込むシーンがある。列車とホームのわずかな隙間に身を寄せ,車輪の間に飛び散るブレーキの火花を見ながら彼女がつぶやくセリフがこれだ。

ここにいたる一連の追いかけっこのシーンは,アイドルからちょっと大人になった薬師丸ひろ子の表情が最高にすばらしくて僕は大好きである。

LDではサイド1の34分27秒くらいかな。すでにLDのカタログからは消えているので中古で見かけたら迷わず買っておこう。僕が持っているのはアナログ音声でかつモノラルという前時代的スペック。これはもうDVDで出してもらうしかないね。

ところでこのセリフ,最初に登場したときにその原典についても触れられている。芥川龍之介うんぬんの話が出てくるのだが,僕は芥川をろくに読んでいないので真相はわからない。童顔のひろ子嬢がつぶやくにしては含蓄がありすぎるような気もするが,早熟の天才作家という設定だからそのアンバランスな取り合わせがよいのかもしれない。

※これをアップしてすぐ芥川ファンの方にご教示いただきました。彼の「舞踏会」という短編が原典だそうです。Usa-chaさんどうもありがとう。

野蛮人のように TE-D118
発売元(株)東映/東映ビデオ