ぐるぐるぐるぐる火葬場の煙

■うずまき■

怪奇漫画家の伊藤潤二氏といえば「富江」などでたいへん有名だが,最近「死びとの恋わずらい」を読んで「うひゃ〜」と感嘆してしまった。この吹っ切れ方は才能だよなあ。恐れ入りましたと平伏してしまう。

氏原作の「うずまき」は昨年公開(2000年)の作品だが,映画評はあまり芳しくなかった。そこまで酷評しなくても,というくらい「最低」だの「映画になってない」だのというコメントを目にして不思議に思ったものだ。実はけっこう楽しんで見たので「なんでそんなに怒るんだよお」と言いたいのである。

確かに映画としては8合目で行き倒れになったという代物かもしれないが,これ,なかなか面白いよ。映画とはこのような形をしていなくてはならない,と決めている人には許せないかもしれないが,そういうこだわりのない人には十分受け入れられるはずだ。DVDで見返すとなおさらその感が強い。

とにかく相当に変な世界である。うずまきに呪われた町で起こる不可解な事件を妙なテンポで描いているわけだが,この味はもうレンタルして自分の目で確認してくださいとしか言いようがない。ギャグすれすれの怪奇という点では原作者の持ち味にかなり沿っているのではなかろうか。

さて「うずまき」とくればこれはもう火葬場の煙である。原作でもインパクトのあったシーンだが,映画版でもかなり怖い。火葬場の煙が禍々しく渦を巻くあの場面である。恐怖におののく関根惠子もとい高橋惠子の黒目がすごい。ついでにこの人もこんな映画に出るようになったのかという感慨もちょっぴり。

DVDではチャプター16の45分35秒あたり。さらにチャプター26の74分36秒ではグレードアップした怪奇な煙が怖いぞ。

ヒロインの初音映莉子は原作似の美少女でいい感じ。まだ下手だけど「ふう」とか「んー」とかの意味なし生理的発声だけは妙に記憶に残る。相手役のフィーファンもこいつのどこが高校生なんだというキャラクターで笑ってしまいそうだが,それでも見ているうちに妙にしっくりくるのが不思議だ。ふたりとも演技やセリフの巧拙を言われたらもうどうしようもないと思うのだが,監督は確信犯なんだろうな。実に変な作物である。

ところでこのDVDには監督の音声解説が収録されているのだが,これが実に面白い。要所要所でしか聞けないのが残念なくらい。全編この調子で解説してくれたらいいのに〜と思ってしまうほど面白かった。この作品はサプルメントと併せて楽しむのがベストであり,劇場よりDVDの方がオススメという珍しいタイプの1作だと思う。

けっこう気色悪いシーンもあるのだが,DVD版を見てますます気に入ってしまったというのが今の本音。コーヒーをかきまぜつつ「うずまきだ……」などとついつぶやいてしまうのである。あぶないなあ。

うずまき DSTD02002
発売元(株)東映