ティコ・ムーンの無重力卵

■ティコ・ムーン■

同じように赤い髪のヒロインが登場するSF作品「フィフス・エレメント」と「ティコ・ムーン」。前者がハリウッド型のド派手な活劇だったのに比べ,後者は下手すると睡魔に襲われかねない地味な展開だった。

しかしこの「ティコ・ムーン」,じっくり見るとその映像やセリフ,世界観や諸々のディテールが想像力を刺激して面白い。月のコロニー(といっても青空が広がっている。広大な施設らしい)で展開されるどこか奇矯で暗いドラマなんだが,実のところ話がなかなか見えてこない部分も多い。

全部語らないと気が済まないハリウッド映画とは対照的だ。2度,3度と見て楽しむタイプの作品だろう。

で,いろいろ象徴的,暗喩的な映像があちこちにちりばめられているのだが,この物語のどこか夢幻的な浮遊感,あるいは頼りなさを感じさせてくれるのがここ,手の中の卵がふわりと浮かび上がって漂っていくシーンである。

映画の中でこのシーンにいったいどんな意味があるのかとなると不明,というより見た人の解釈次第だが,僕にはこの物語の雰囲気を象徴したワンカットに見えた。一応,このコロニーでは最近重力制御も不調であると語られているけど,そういった技術的な説明のための布石にしてはあまりに象徴的な映像に思えるからだ。

LDではサイド1チャプター9の23分25秒というところ。最初にこのシーンを見たときには??と思っているうちに通り過ぎてしまったのだが,妙にあとをひくイメージである。

何か国語も交えた背景音(ちょっと林原めぐみ風の日本語も聞こえるね)とか,次の夜は二日後だとか,ペテルギウスはもうないとかあまり本筋に関係ない細部がちょこちょこと出てくる。それが暗い道を通り抜けていく恋人たちの物語にえもいわれぬ奥行きを与えている。

未来のお話ではあるが,ずっと昔に見たドラマのよう。ヒロイン役ジュリー・デルピーのちょっとはれぼったい目が妙に心に焼き付いている。LDは箱入りのデラックス版。

ティコ・ムーン PILF-2541
発売元(株)パイオニアLDC