ライト・サイクル

■TRON■

時がたってあらためてその値打ちに気がつくということがある。いや,それほど大げさなことじゃないんだけど,十数年ぶりに「TRON」を見てその先進的な試みについそんなことを考えてしまったのである。

82年の作品だから20年も前(今は2002年夏)の映画になる。もうそんなになるのか,とちょっとびっくりしてしまうが,当時,そろそろ発達し始めていたCGを全面的に取り入れた画期的な映像として話題になった作品だ。確かに他の映画とは全く違う映像世界であったが,その斬新さはむしろ今の方がより実感できるのではないだろうか。

初期の古いLD版しか見たことのなかった僕は,DVDのワイド画面で再会した「TRON」の美しい映像にいたく感激してしまった。こんなにキレイな映画だったんだなあ。

現代のほとんど自然画に近い高度なCGと違って,ソリッドで幾何学的な,いかにも昔のCGという感じの映像ではあるんだけど,そのシャープで一点の曇りもない造形の数々がまことに美しい。ヴァーチャル世界の表現は「マトリックス」や「アヴァロン」のような方向には進化したけど,この「TRON」のようなデザインには向かわなかった。おかげで今見るとたいへん珍しく,個性的だ。ディズニーもいろいろ挑戦してたのだなと今さらのように思う。

現実世界の方のストーリーはどうでもいいようなもの,と言っては失礼だが,やはりこの映画の真価は主人公が電脳世界に飛び込んでからの展開にある。今ならいろんな仕掛けの意味やメタファーがよくわかるので,当時よりずっと面白く感じるのである。昔見たよという人にもぜひ再見をおすすめする。

さて「TRON」とくれば光電子バイク……ライト・サイクルだ。

後半の光子帆船の美しさも捨てがたいが,ライト・サイクルのスピード感といかにもゲーム的な展開が印象的だ。公開当時もよく取り上げられていたが,このシーンはまさに本作の顔だった。DVDではちょうどチャプター13。ライト・サイクルはゲーム・グリッドを走っているときの方がより刺激的で,グリッドを脱出して自由に走っているときはそれほどでもない。直線的な疾走と直角に曲がるあのスリルがいいんだよねえ。

この映画,最近のCGと違って背景がシンプルで人工的,かつコントラストが高いので,太陽のない夢のような世界での冒険という雰囲気が強い。この感じがなかなかよくて,僕のお気に入りの理由のひとつである。映像と音楽と効果音がもう「TRON」以外の何ものでもないというくらいその雰囲気に貢献していることも今ならよくわかる。

ともあれ,コンピュータやCGにまつわる様々な概念が普及した今,もう一度手にとって楽しんでほしい映画である。もしかすると20年前より新鮮なインパクトを感じるかもしれないぞ。

TRON VWDS3180
発売元(株)ブエナ ビスタ ホーム エンターテイメント