宮崎駿監督の「となりのトトロ」は傑作だけど,ぶっ飛んだお話ではない。どちらかといえば日常的世界を舞台にしている。映画評論家の受容能力というのはつまらん見栄を抱えている分キャパシティが小さく,下手すると一般観客以下だ。かつてSF作家の「非SF作品」だけを選んで文学賞を与えた文壇と同じく,破天荒な世界は忌避すべきものなのである。
その日常的世界しか受け入れられない彼らにも受容可能な数少ないアニメーションのひとつがこの作品だ。
ごく普通の景色の中で日常からちょっとだけ「お話」の世界に寄ったこの映画だが,あまりにも自然な展開なのでそのたくましい幻想性には気付きにくいかもしれない。しかしこれだけのものをフィルムに定着させるイマジネーションというのは尋常ではない。
たとえば美術の美しさ,特に時間経過とともに色を変えていく夏の午後の描き方など絶品だが,それを再現する力もまた深く濃い幻想のうちである。何度見ても気持ちがいいのは監督/スタッフの並々ならぬ力があったればこそだ。
それは誰もが名場面としてあげるあのシーン,木の芽がみるみるうちに巨木に成長するあのサツキとメイとトトロたちのドンドコ踊り?のシーンのすばらしさによく現れている。
ラスト近くのネコバスで飛び回るシーンと並んで作中もっともダイナミックなイメージを見せてくれる部分である。
LDではサイド2チャプター13の16分38秒あたりからサツキとメイがトトロたちの踊り?というか儀式??に参加する。気持ちいい〜〜。よく見るとサツキたちの動きはちゃんと音楽に合っているんだよねー。泣けるシーンじゃないのに鼻の奥がつんとしてくる。自分でいうのも相当照れくさいが,心が洗われるような,という表現はきっとこんな感動をいうのだろうなあ。
一夜明けて「夢だけど,夢じゃなかった」というくだりまで,日本映画史上まれにみる幸福な夢想だったと思う。
となりのトトロ 98LX-13
発売元(株)徳間書店/徳間コミュニケーションズ