原田知世のモモクリサンネンを聞いてみる

■時をかける少女■

大林宣彦監督の「時をかける少女」はかつての角川映画の偉大なる遺産である。いろんな意味でとやかく言われることの多かった角川映画はそれだけ無視しがたい影響力を放っていたということでもあるが,とにかくこの1作を世に出してくれたことだけでも感謝したい。

僕は世代的にNHK少年ドラマシリーズの「タイムトラベラー」を見ていたくちなので,角川映画になる,ましてやあの大宣伝ということで心中密かに反発するものがあった。しかし公開された映画はあのとおりすばらしい余韻の傑作で,見終わった後の充実感というのはちょっと言葉にならなかった。ラストのカーテンコールの幸福感といったら!

その劇中で歌われる桃栗3年柿8年の不思議な曲,サントラを買って初めて「愛のためいき」というロマンチックなタイトルが付いていることを知った。その気で見ればちゃんと映画のクレジットに書いてあったんだけどね。今年で公開後15年になるが,今聞くと過ぎ去った幸福な時代の夢のかけらといった感じで切なさがつのる。名曲だなあ。

初期版LDではサイド2の5分40秒あたりから聞ける。和子(原田知世)ではなく深町君(高柳良一)が歌って和子があわせる。このあたりしんとした静かなセリフが松任谷正隆の音楽に溶け込んでホントにすばらしい。

よく聞くとこの「愛のためいき」は1番と2番の歌詞が全然違う世界になっている。

わたし,あの歌にこんな続きがあるなんて知らなかったわ

という和子のセリフがあるが,あの2番の歌詞には深町少年の孤独とそれ故に彼が和子にさしのべた優しさが込められているような気がする。文字にしてしまうと照れくさいが,とりとめもなくそんな妄想のあれやこれやにひたっているのが心地よい。そういう映画である。

余談だが,この映画,ラストのエピソードでは画面サイズが変わる。その意図は明らかだが,テレビ放映ではそんなことお構いなしに同じ画面サイズで流してしまう。大画面でなくともそのすばらしさが損なわれる映画ではないが,こういうちょっとした無神経さがテレビに幻滅する瞬間なのである。

時をかける少女 FH078-24KD
発売元(株)レーザーディスク/パイオニア