天使の化石

■天使のたまご■

アニメ界でもっとも先鋭的なファンを持つ押井守監督の仕事については,もう山ほど論説が出されているが,激しく論争を繰り返す連中にしても新作が待ち遠しいという点では異論はないはずである。"押井守監督作品"という一枚看板で通用する異才だ。

その彼の「天使のたまご」はあらゆる意味で異質の極みともいえる問題作である。夢とも現実ともつかぬ世界で静かに繰り広げられる影絵のようなドラマ。商業アニメーションでこれほどもろに作家性をさらけ出した作品も珍しい(製作を許可したスポンサーの英断に拍手)が,ろくなストーリーもないのに目が離せない強烈な緊張感とイマジネーションのすばらしさが印象的だった。

何といってもそのクオリティの高さと異様で美しいイメージは衝撃だ。しかも,最近のOVAを見慣れている人は驚嘆するだろうが,これはビデオオリジナルなのである。このグレードは優に劇場用作品のそれだ。緻密な作画と美術の仕事ぶりは現在のOVAの粗雑な作画とは別世界である。

さてこの作品,全編が異様なイメージで忘れがたいのだが,キーワードのひとつが"鳥"である。そして劇中に登場する"鳥の化石"のシーンが実に印象的だった。ぞくりとするインパクトがある。"鳥"と呼ばれるその化石は明らかに翼を持った人骨の化石であったからだ。しゃれこうべと翼の取り合わせが美しく,そして不気味だ。天使の化石である。

初期版LDではサイド2の8分45秒だ。これもまたアニメ史上に残るワンカットのひとつだろう。当時のアニメージュ誌の特集記事が懐かしい。

ちなみにBGMの方もすばらしく,サントラCDは作品本編共々必携である。夜中に流していると少し怖いが,イマジネーションを刺激することこの上ない。LDの方は現在単品で入手できるかどうかわからない。中古で発見したら迷わずレジに直行である。押井監督の作品集のLDボックスには収められているが,この作品のためだけにボックスを買うのもすばらしい決断で賞賛に値する。それだけの値打ちはある。

天使のたまご 88LX-6
発売元(株)徳間ジャパン/徳間コミュニケーションズ