20年代モンパルナスの女王

■SHOW SYLVIE VARTAN■

昔はよかった……というのはなにも年寄りの繰り言に限ったことではない。現代のようにDVDその他でいくらでもコンテンツが供給される時代だと昔のものも最新のものも取りそろえて見ることができる。すると若い人たちもこうつぶやくのだ。昔はよかったんだなあ,と。

文化というのは時代とともに進歩するとは限らない。むしろ後退することもしばしばだ。実例は身近にいくらでも転がっている。

例えばテレビの音楽番組がそうだ。今,音楽関係の映像といえばほとんどライブかプロモーション・ビデオのどちらかである。それ以外のものはきわめて少ない。わずかにドキュメンタリーがある程度か。これはテレビに限らずDVDなどのパッケージソフトも同様だと思う。

かつてはそうじゃなかった。スタジオ収録の音楽番組はもっとリッチでバラエティに富んでいた。じっくり曲を聞かせるもの,入念にリハーサルを重ねたもの,豪華なセットと大物スターの組合せ等々……。それが今ではPVかライブの模様だけという貧しさである。

この現象は実は海の向こうでも同様らしくて,以前北米の人に聞いたところ,あちらでもかつてのアンディ・ウイリアムズ・ショーみたいなスタジオ収録の音楽番組は見なくなったと言っていた。なぜなんだろうね。

前置きがずいぶん長くなってしまったが,その今ではなかなかお目にかかれないタイプの音楽番組のひとつがシルヴィ・バルタン主演の「SHOW SYLVIE VARTAN」だ。75年というからほぼ30年前のテレビのショー番組である。

内容はちょっとストーリー仕立ての軽いミュージカルといったところで,構成等は別に凝ったものではない。ただシルヴィ・バルタンという大スターがこうして1本のショー番組,今でいうテレビ・スペシャルでパフォーマンスを披露してくれることがとてもぜいたくに感じられるのだ。もちろんファンなら永久保存ものだろう。

かつては日本でもこういったタイプの番組がいろいろあったのだが,いつの間にか絶滅している。もったいない話である。スペシャル番組を支えられるだけの力のあるアーティストはちゃんといるのにねえ。

さて,このショーの中でシルヴィは何曲も歌ってくれるのだが,いちばんの見どころはベル・エポック時代の勝ち気な女性という役どころで登場するシーン。ミュシャのポスターに出てくるような衣裳で歌う彼女の姿は色気までも堂々と売り物にしていてあっぱれだ。ちなみに「20年代モンパルナスの女王」というのは劇中のセリフ。

DVDではチャプター8の24分16秒あたりから。チャプター8と9のほぼすべてと言っておこうか。このコスチューム,彼女だと実に様になっている。いわゆる眼福というやつを実感できるだろう。それに,どこがどうというのではないが,アメリカ女性がやってもこの感じはなかなか出るまいと思わせる雰囲気があるのだ。これはルックスよりはオーラに属する部分かもしれない。

当時の夫君ジョニー・アリデイもしっかり共演していてさすがの貫禄。このふたり,すごく力の拮抗した迫力満点のカップルで,確かに燃えるだろうけど早晩燃え尽きるだろうなという感じもありあり。後に別れちゃったのも納得できるくらい全力で力比べをしているようなカップルぶりだった。まあ,それは余談か。

SHOW SYLVIE VARTAN COBG 5050
発売元(株)コロムビア