爆発回り込み

■ソードフィッシュ■

最近,ハリウッド映画の平均的製作コストがついに1億ドルの大台を越えたというニュースが流れた。2003年度の数字だそうだが,昔を知る者には「ふえ〜」とため息をつくしかない。宣伝費込みとはいえ,天井知らずのインフレぶりである。

確かに映画1本に100億円使えるってのはすごいと思うし,さすがに物質文明に邁進する国は違うなーとも思うが,それにしても1億ドル!たぶん1作で100億円動かさないとビジネスとしてペイしないほど彼の国の映画産業の構造は肥大化しているのだろう。正確なところはわからないが,この額は邦画の約20倍と見ていいと思う。

ハリウッド映画に邦画の20倍の内容があるかどうかはともかく,画面が20倍ぜいたくであることは確かだ。

最近「ソードフィッシュ」を見ていて,ごく普通にというかごく当たり前に「ああ,やっぱりハリウッド映画はお金あるんだ」と痛感してしまった。なんというか無理なく使いたいものが使え,撮りたい絵が撮れる……そんな物質的余裕みたいなものがあるんだな。ビルにしろ,車にしろ,ヘリにしろ,とにかく切りつめて切りつめてやっとこの絵が撮れたよ〜なんてせせこましさがない。

ハリウッド映画というのはそれだけで独立したジャンル,しかもアメリカ固有の,と割り切らないと他国の映画関係者はやってけないかもしれない。

実のところ,この「ソードフィッシュ」が娯楽映画としてどのくらいの水準にあるのか僕にはよくわからない。面白く見たのでよい出来なのだろうとは思うが,なんだかハリウッドなら皆このくらいに仕上げてきそうな感じもする。まあ,楽しかったからそれでOK,というのが観客としての正直な態度だろう。うん,よしっ,面白かった。

まず意表を突いたオープニングの展開に思わず「おお,そう来たか」と驚いてしまう。その序盤の爆発シーンがまた凝っている。例の「マトリックス」以来さんざん見慣れたバレット・タイム(技術的には違うのかもしれないが)で爆発シーンをぐるりんと回してみせるのだ。

DVDではチャプター2の7分38秒ってところ。いやあ,あざといね〜でも娯楽映画なんだからこういうケレンは大好きだ。昔の映画ファンが見たら驚くだろうなあ。

ジョン・トラボルタの悪役ぶりもいいね。あらゆる状況を把握して常に誰よりも先を読んでいる。そして最後に余裕で勝利する。フィクションの悪人ってのはすべからくこうあるべきだと思う。もちろん現実世界のテロリストは否定されるべきだが,2時間の娯楽の中では凡庸な正義を凌駕する悪人こそ魅力的だ。

そんなふうに感じる心こそが人間の救われないところ……なのかもしれないが,それはまた別の話。この映画には関係なかったね。

ソードフィッシュ DL-21322
発売元(株)ワーナー・ホーム・ビデオ