スターマンの土星型宇宙船

■スターマン■

世評なんてあてにならない。映画好きならよくわかっているはず(ま,他人の評価がなぜか気になるって人も多いけどね)なんだけど,それでも見る前の予想を覆して面白い作品にぶつかるとうれしくなってしまう。そんな出会いが多ければ映画ファンはまことにシアワセだ。

ジョン・カーペンター監督の「スターマン」は僕にとってはそんな思いがけない佳作のひとつである。こわくてグロくてどひゃーな作品が本領と思われている監督さんだけど,彼のキャリアの中で唯一例外といってもよい作品。そんな風に僕も名前だけは知っていた……のだが,なかなか食指が動かず結局最近のDVDリリースで初めて接することになった。

いやこれはよかったねえ!

以前は「愛・宇宙はるかに」なんて赤面するようなサブタイトルが付いていたけどDVD版ではただの「スターマン」になっている。しかし恥ずかしいのを承知で言えば,今ならこういうサブタイトルをつけた担当者の気持ちもよくわかる。SFもののラブ・ストーリーとして実に気持ちよい出来だからだ。えらいぞカーペンター!

この映画,僕ごときが言うのもなんだが実にセンスがいい。序盤,アルバムに貼られた遺髪,つまり髪の毛の拡大映像から細胞内に至る描写があるが,これなど「あっ,遺伝情報から肉体を作るんだな」というSF独特の快感があってうれしくなる。物体Xみたいな生々しい描写でなく,ラブ・ストーリーにふさわしい描き方だと思う。全体的にゼナ・ヘンダースンの名作「ピープル・シリーズ」をちょっと思い出させるようなタッチである。

しかし僕が最もうれしかったのはラストに登場した巨大宇宙船だ。土星のように星くず(みたいに見える)の輪っかを持ったでっかい船である。画面でその大きさを見れば,ラストシーンの舞台がなぜそこでなければならなかったのかがわかる仕掛けになっていて「おおーそうだったのかー」と膝をたたいてしまった。スターマン言うところの着陸地点1の意味がわかったよ。なるほどなあ。うまいなあ。

DVD版は画質もよく,コレクションの喜びを感じさせる1枚。チャプター28の105分45秒あたりから。宇宙船というよりまんま天体そのもののルックスだが,この映画にはぴったりだ。買ってよかったと本心から言える1作であった。

もちろんジェフ・ブリッジスとカレン・アレンの主役カップルがとおってもよかったのは言うまでもない。

スターマン SDD-10682
発売元(株)ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント