死神の子守唄

■怪奇大作戦■

テレビっ子だった昔のこと,日曜夜のハイライトが巨大怪獣や宇宙人が暴れ回る初期ウルトラから等身大の特撮ドラマ「怪奇大作戦」に替わったとき,実はずいぶんとまどった。面白いんだけど,毎週なにやら妙にもやもやした後味の残る作品だったからだ。実相寺昭雄はお子さまにはちょいとハイブロウすぎたのだ。

ゆえに,大人になって再見したそれは実に面白かった。予算の制約はあったろうし,現在のようなハイパーな映像技術もなかった時代だが,演出や製作の異様なまでの熱意やチャレンジぶりが伝わってくるのである。

続発する奇怪な事件に対して科学捜査で立ち向かうSRIの活躍を描いたシリーズだが,実相寺監督はじめ娯楽と作家性の混ざり具合がなんとも面白い。思考力不要の今どきのドラマとは密度が違うのだ。

さて,この「怪奇大作戦」はドラマだけでなく音楽も印象的で,テーマソングはいまだに僕のお気に入りの曲のひとつである。後にサントラが出たときは迷わず買った。実はテーマソング以外にどうしても欲しい曲があったからだ。それが第5話「死神の子守歌」に登場する同名の挿入歌である。

謎の女,高木京子が歌う奇妙な数え歌。その歌詞のとおりに殺されていく女たち。しかも凍りついた死体になって。事件と京子の関係は?……という話なんだけど,テーマは重いわ,アブナイ言葉は続出するわで,今これをそのままオンエアする度胸の持ち主はどこの局にもいないだろう。このシリーズはそういう話でいっぱいだ。何しろ今では危なすぎて完全に欠番になっている回もあるのだ。

科学考証などはずいぶん怪しいというか噴飯ものの部分もあるのだが,とにかく演出は重いし話は暗いし岸田森も個性全開だし結末も救いがないし,というわけで「むーん」という感想なのである。でも面白いんだよ。

そして哀調を帯びた死神の子守唄とその歌詞。「10人の娘が旅に出た」で始まり,ひとりずつ死んでいく内容で,マザーグースを思い出してもらえればいいかな。なんとも印象的な曲で,サントラ(LPだよ)でも聴けなかったのだが,後にLDでついに再会した時は「ああ,これだ……」と喜んだものである。

サイド1チャプター5の28分56秒からと同じく35分56秒から。これで5人目が死んだところまで歌われ,「残った5人が旅に出た」と続くのだが,悔しいことに本編に登場するのはここまで。続きがどうなるのかぜひとも聴きたいところだが,このエピソードのために作られた曲なので後半部分は存在しないのかもしれない。

この作品は今まで何度もリリースされているが,もし中古で入手されるなら4集に分けて発売されたバンダイのLDバージョンをおすすめする。欠番の作品も含めて無粋な音声カットが施されていない完全な形で鑑賞できるからだ。今じゃとても無理。普段テレビからは絶対に流れてこない言葉がばんばん聞こえてくるのは一種不思議な感じでもある。むろん,パッケージソフトに限ってはこれこそが正しい姿なのだ。

怪奇大作戦/実相寺昭雄スペシャル BELL-200
発売元(株)バンダイメディア事業部/バンダイビジュアル販売