惑星ソラリスに見る東京

■惑星ソラリス■

「惑星ソラリス」はソビエト映画である。もはや存在しない伝説の超大国で生まれたまか不思議なSF映画としてぜひとも入手しておきたい1枚だ。タルコフスキー監督の作品というだけでなく,ハリウッドのガチャガチャしたSFアクションに食傷気味の人にもじっくりと考えながらこの孤高の世界を堪能してもらいたいものだ。

派手なドラマがあるわけではないが,人間という存在の意味を哲学的に問うてくるその静かな迫力のようなものがすばらしい。なにぶんあのお国柄であるから間違ってもジェットコースタームービーなどにはならないのであるが,たまにこういうものを見ると新鮮で一挙に洗脳されてしまいそうだ。

超シリアスな演技陣の熱演もいいが,ヒロインのナタリア・ボンダルチュクが最高だ。人にあらざる存在でありながら,物語が進むにつれ徐々に人間の魂が現像されていくような微妙な変化が妖しく,そして魅力的だ。

さて,これは1972年の作であるが,面白いシーンがある。主人公クリスが惑星ソラリスに出発する前の地球でのシークエンスなのだが,作品世界は21世紀ということになっている。その21世紀の未来都市として出てくる風景というのが当時の東京なのである。ビルの谷間をぬって走るハイウェイというのがよほど未来的に見えたのだろうか,数分にわたって延々と映し出される風景には「銀座方面渋滞」などという表示も見える。

サイド1の34分25秒あたりからだ。ぼんやり見ていると気がつかないかもしれないが,実際あまり違和感は感じない。主人公に無形の圧迫を感じさせる都市の威圧感のようなものが伝わってくる演出なのか。すでにこの時点で主人公が大きなストレスを抱え込んでいることが感じられ,続く異世界での心理的葛藤の重苦しさへとつながっている。

いずれにしろ,じっくりとかまえて見るタイプの希有なSF映画であり,なにかしーんとした厳粛なものを見たいなどという気分の時には最高の1枚だろう。充実した165分である。

惑星ソラリス TLL 2334
発売元(株)東宝