ヒューイ デューイ ルーイ

■サイレント・ランニング■

これを書いているのは2002年10月最後の一日。窓の外には晩秋の冷たい雨がさわさわと降っている。すぐ脇に大きな通りがあって車の行き来は絶えないはずなのに,その騒音も何となく遠のいて聞こえる。肌寒くて寂しい秋の一日……そんな雰囲気が濃厚だ。

この気分とか雰囲気といったあやふやな彩りは映画の記憶にも歴然とあって,内容はろくに覚えていないのに,感情をともなったイメージのようなものは長く心に残っていたりする。

僕にとって「サイレント・ランニング」はそうした作品のひとつで,何度も見ているはずなのにタイトルを聞いて思い浮かぶのはストーリーよりもその周辺の様々な記憶のあれこれである。そんなに思い入れのある映画ではなかったはずなのに,妙に思い出にからみついてくる感じなのだ。

ドームに森を保存したまま宇宙を漂う巨大ステーション。ドーム破棄の指令に反抗して仲間を裏切り,3体の作業ロボットとともにたったひとり森と暮らそうとした男。だが,やがて……というお話なんだけど,見た方にはお分かりのとおり,理屈や考証よりセンチメンタルでもの寂しいSF映画である。

公開時にリアルタイムで評判を聞いていたこと,なかなか見る機会がなかったこと,初めて見たのは淀川さんの日曜洋画劇場だったこと,ジョーン・バエズの歌も含めてテーマ曲が耳に残ったこと……。今でも心をよぎるのはこうした切れ切れの思い出でしかないのだが,なぜかそれが捨てがたい記憶になっている。

結局,この映画にしっかり捕まっているのだろう。

中でもたいへん印象的だったのが,3体の作業ロボット(メンテナンス・ドローン)のキャラクターである。あの独特のよちよち歩きと拙い反応がまことにけなげで泣けそうになる。内部には障害者の俳優さんが入っていたそうだが,あれは本当に忘れられない。えらく感情移入してしまう名キャラクターであった。

ヒューイ,デューイ,ルーイというのは主人公が彼ら3体につけた名前だ。その由来についてはあえて書くまでもないね。彼らが壊れたり船外に飛ばされたりすると,それは故障や損失ではなく"負傷"であり"犠牲"と強く感じてしまうのである。ロボットに感情移入できる民族である日本人にとっては尚更だ。

彼らの登場するシーンすべてがそんな彩りを帯びているので,実のところ,ここが名場面という取り出し方はできない。だが,たった1台残ったデューイが無人のドームの中で森の世話をしているラストシーンをその代表として挙げておこう。DVDではチャプター16の83分42秒。デューイが使っているじょうろに描かれたアットホームな絵を見て泣けそうになる。

でもその前のチャプター14の78分40秒あたりからの,主人公がデューイに別れを告げるシーンでもうぐっときてしまうのだよねー。

SF映画のメインストリームからは少し外れた,幻の名作と言われ続けてきた作品だが,さすがにDVD時代,こうして廉価で入手できるのは喜ばしい。でも以前録画していたデジタルハイビジョン版の方がランニングタイムが4分近く長い。どこが違うんだろうなあ。

サイレント・ランニング UJCD-33990
発売元(株)ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン