シャイニングの幽霊姉妹

■シャイニング■

ジャック・ニコルソンという人は画面に登場しただけで「こいつは危ねえ」と思わせるキャラクターの持ち主である。これには異論は少ないだろう。何というか,穏やかな人間関係を望む人には近寄りがたいオーラを放っている。笑っていても怒っていても黙っていてもしゃべっていても,とにかく可及的速やかにこいつから離れた方がよさそうだと感じさせるものがあるのだ。

スタンリー・キューブリック監督の「シャイニング」を見たときはその面白さ,怖さに感心するとともに,ニコルソンの適役ぶりに感嘆したものだ。彼以外にこの役をあそこまで演じられる俳優がいるだろうか。怖え〜なあ,と素直に感服する以外にない。

しかし彼の強烈キャラクターばかりがこの映画の怖さでない。そもそもあの広大なホテルに家族たった3人だけで住まなくてはならないこと,しかもほとんど外界と遮断された状態でひと冬過ごすなんて,それこそ最大の恐怖ではなかろうか。

日頃人間関係に煩わされている人だって,あの環境に放り込まれたら「孤独が好き」なんて言ってられんと思うぞ。人の気配がない分それ以外の気配に敏感になってしまってさぞや怖い思いをするに違いない。

だから,この映画の中で息子のダニーがおもちゃの車でホテル内を走り回るシーンの何とも言い難い圧迫感のようなもの,あれはダニーの感じている恐怖そのものだろうという気がする。

そこでいきなり双子(なのか?)姉妹の幽霊に出くわすわけで,これはものすごくインパクトがある。このくらいのネタバレは勘弁してもらおう。とにかくこのシーン,見せ方がうまいので思わず腰を浮かせてしまう。

正直,僕にはキューブリックらしさとは何か?という指摘はできないので「さすがはキューブリック」と知ったかぶりで断定することはできない。しかしこのシーンひとつとっても彼の尋常ならざる手腕が感じられて印象深い。印象深いというよりやはり怖いといった方が正しいのかな。

この幽霊姉妹のシーン,DVDではチャプター15の49分37秒といったところ。確認のためにちょっと見ただけでぞぞぞーである。あの状況で「遊びましょう」と言われてもなあ。よく見るとこの姉妹の顔がまた怖くて,悲鳴を上げなかったダニーの気丈さは並大抵のものではない。

とにかく,モンスターより幽霊の方が怖いという人にはこの映画は隅から隅まで恐ろしい体験だろう。CG全盛で映像のオモチャ箱みたいなホラー映画も多いが,それらとは別次元の重厚で緻密な,成熟した知性による仕事ぶりがすばらしい1作だ。

ファンならずとも(怖いもの見たさでもけっこう)ぜひ手元に置きたいタイトルである。

シャイニング SD-1-11079
発売元(株)ワーナー・ホーム・ビデオ