のはらひろしの20世紀

■クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲■

最近になって(今は2002年暮)ようやくDVDのリリースが始まった「クレヨンしんちゃん」も今年で10作目だそうな。「もうそんなになるのか」とあらためて感心するけど,劇場版は毎回の暴走ぶりがホントに楽しい。ついつい見ちゃうTV版の軽さもいいけど,年に一度の豪華な野原一家大活劇も楽しみなんだよね。

昨年の「嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」以来,一般の映画ファンも認識を新たにしたらしいけど,それこそオトナの照れや見栄が邪魔して今まで手に取れなかった人にはお気の毒としか言いようがない。こんな面白いシリーズを10年も見逃してたんだから。

実際,映画ファンと名乗りながら妙に敷居を高くしてる人が多い。見る作品すべてに10年に一度の人生的大感動を要求してるんじゃなかろうか。他者が何かを与えてくれるのをずーっと待っているだけ。それじゃあ間口は狭くなる一方である。

しんちゃんのお下劣ギャグやドタバタ騒ぎをアハアハと笑って楽しめる軽さがあれば,映画に限らずたくさん面白いものを見つけられるはずだがなあ。

ま,それはそれとしてようやくDVDがリリースされた「オトナ帝国の逆襲」,我が家でじっくり見られるようになったのはたいへんうれしい。もう明らかに大人向けのテイストなので,ふふふ,とぜいたくを楽しんでいる気になっちゃうよ。第一,中身が濃い。一概に実写とアニメで比較はできないにしても,これ見ちゃうと邦画(劇映画)は負けてるよなあ,と素直に認める気になってしまう。

アイデアも展開も演出も,あえて子供向けの領域を逸脱しているのはもしかするとキッズアニメとしては邪道なのかもしれないが,このままの路線で行けるところまで突っ走ってほしいと思う。でも案外今のお子ちゃまたちのキャパシティは広くてこのくらい平気で受け止められるのかも。

懐かしい70年代の匂いで大人たちを洗脳し,日本を20世紀に引き戻そうとする謎の組織イエスタデイ・ワンスモアと野原一家の戦い。その武器として使われる"懐かしい世界"の描き方というか演出自体がたいへん鮮やかで強力なので,あの時代を経験しているこちらもむむうと反応してしまう。それを「懐かしいってそんなにいいものなのかなあ」と幼稚園児に言わせることでさりげなく突っつく手際も上手い。

今までノスタルジアに対してそんな風に切り返されたことってなかったような気がする。

それでいて,ひろし(しんちゃんのとーちゃんね)が半生を回想するシーンのノスタルジックな描写が,実に何というかベタな,いかにもという描き方でありながらとても印象的だ。あえて誰もが想起しそうなシーンを並べているのに,それが典型の強みになっているのである。ごく普通にサラリーマンをやった身には泣けそうになる。

DVDではチャプター10の60分11秒あたりから。オーソドックスに見えるけど,定石,その逆,更にもう一度オーソドックスに戻ってあの描き方にした,という感じで僕には監督さんの熟慮の跡がしのばれるワンシーンに見える。

もちろん,しんちゃんやカスカベ防衛隊のみんなのキャラクターも相変わらず楽しいし,何より野原一家の家族の絆が意外なほど心地よいと僕は思う。

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲 BCBA-1407
発売元(株)シンエイ動画/バンダイビジュアル