童子のときは

■GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊■

押井守監督の「イノセンス」が公開直前(今は2004年3月頭)ということで,おさらいの意味も込めて久しぶりに「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」を見た。ちょうど廉価版のDVDも出たことだしね。

最初に見たときは少し押井色が薄いんじゃないかと思った本作だが,なんだか時がたつにつれてだんだん面白く感じるようになってきた。いや,最初から楽しんでいたのは事実なんだけど,なにしろ監督の信奉者たちの間には「押井守のカラーはこうだっ!」みたいな強烈な思い込みがあるからね。僕自身,監督は「パトレイバー2」のような深みにどんどんはまっていくのかな,と勝手な想像をしていたのかもしれない。

だから本作を最初に見たときは意外とあっさりしているような印象を抱いたのである。押井守の世界ってもっとディープなもんじゃなかったっけ?てな感じでね。

しかしあれから9年。たまに引っぱり出して見るたびに,その前に見たときより面白く感じるから不思議だ。それこそが押井監督の膂力ってものだったのか。

あるいは現実のインターネットが膨れ上がるにしたがってその暗黒面や地下部分の混沌がリアルに感じられるようになったせいかもしれない……なんて小賢しい解釈はボロが出るのでひとまずおくとしても,2004年の今あらためて見る「GHOST IN THE SHELL」はきわめて明快で面白い。

何と言ってもあの雰囲気がいいよねえ。あの「謡」の音楽といささかいびつな電脳社会の組合せが秀逸。加えてダイアログにちりばめられた言の葉のゆらめきがまた印象的で,それはもしかすると単なる手管なのかもしれないけど今の僕にはとても魅力的だ。

台詞といえば公開当時からたいへん印象的だったのが例の「わらべのときは……」というアレだ。原典は新約聖書「コリント人への手紙」という部分にあるのだが,このクラシカルな響きが実にいいね。

童子(わらべ)のときは
語ることも童子のごとく
思うことも童子のごとく
論ずることも童子のごとくなりしが
人と成りては童子のことを棄てたり

うちのDVDではチャプター14の76分23秒あたりから。もうラスト直前である。この作品,実はクレジットを除くと80分もない。長編としては短めの話だったのだ。

ちなみに,聖書は古今東西のあらゆる物語にとって究極のネタ本のひとつだが,実際に手にしてみると様々な訳があり,その雰囲気を堪能したければそれなりの選択が必要だ。古風で格調高い訳文のものでないといささか興ざめということになる。我が家には今となっては珍しいLD版の聖書,その名も「ディスク聖書」という代物があるのだが,この映画のような古典的な風格ある訳文ではなかったなあ。

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊 BCBA-1782
発売元(株)バンダイビジュアル