ダンとアンヌの別れ

■ウルトラセブン■

僕のパソコンにはこのホームページ誕生前の原稿がまだ健在で,どんなサイトにするかちょっとだけ思案した跡が残っている。今見ると,この名場面探索隊というコーナーも最初は「チャプターの鬼」なんて大笑いの表題を考えていたらしくて恥ずかしい。そうならなくてよかったなあ。

いちばん最初の構想時に並んでいたネタは「地下鉄の風に翻るモンローのスカート」だとか「赤ずきんちゃんと狼男」だとか「ベン・ハーの戦車競走」とかいったもので,その大半は初期の記事として実現している。まあ,最初からネタ探しには苦労していたようだ。

で,その中で今回あれっと思ったのがこれ。テレビの「ウルトラセブン」最終回におけるダンとアンヌの別れのシーンだ。僕にとっては思い出深い名シーンなのに今までほったらかしにしていたとは我ながら意外。なんで忘れちゃったんだろう。

僕は子供時代の気分というのを比較的明瞭に呼び起こすことができるのだが,この「ウルトラセブン」には前作「ウルトラマン」のようなわくわくする楽しさを覚えなかった印象がある。クールで時に苦い演出がお子さまにはハイブロウ過ぎたのか。

ふと不安な思いがきざすその"ひんやりした感じ"こそは大人の味だったのだね。

だから最終エピソードのドラマチックな展開は異様な緊迫感で迫ってくるものがあった。あえて言葉にすれば人ごとではない重大事件としてたいそうリアルなストレスを感じていたような記憶がある。いったいどうなっちゃうんだろうってね。ウルトラマンが倒れたときはショックだったけど,こんなに重い気分じゃなかった。

異星人の侵略に総力戦を余儀なくされる人類。ダメージを負った身体で苦悩するダンはアンヌに正体を明かして最後の戦いへと赴く……。

作り手側も全力投球であることが今ならよくわかるこの作品,このクライマックスの中での二人のやりとりが子供心にえらく強烈だった。この時が来てしまったという感じ,できれば目をそらしていたかった運命に直面させられた感じ,とでも言おうか。

このシーンのおかげで,ダンとアンヌのいろんなエピソードの印象がシリーズ当初にまでさかのぼって現像し直された気がする。あの時の二人,あのエピソードの二人,あの事件の二人……うん,最終回というのはこうでなくてはね。

愛する人の前で正体を告げ,変身して運命の戦いへとのぞむ,というのは以後変身ものの王道になったのではないだろうか。

もうとっくにDVDが出ているけどうちにあるのはLDのみ。悪しからず。ボックス版ディスク12サイド2チャプター4の41分34秒くらいから。向かい合った二人のシルエットと静かなBGM,続いてキリヤマ隊長の決然とした指令と異星人基地への反撃,アンヌを振り切って飛び去るセブン,大爆発,そして最後の怪獣との戦いというまさにクライマックスならではの怒濤の展開だ。

特撮&怪獣大好き少年の心に初めて痛みを教えたエピソードであった。

ウルトラセブン メモリアルボックス パート2 BELL-637
発売元(株)バンダイビジュアル