椿三十郎−決闘抜き打ち大出血

■椿三十郎■

言わずとしれた黒澤明監督の傑作「椿三十郎」はあの「用心棒」の姉妹編的作品だが,そのラストに配された1対1の決闘シーンがずいぶん話題になった。凄絶な演出がそれまでの時代劇とは一線を画しているのだ。

「用心棒」でも三船敏郎は一気の殺陣を見せてくれるが,それはまだ従来からある殺陣を豪快かつスピーディーにやっているだけとも言える。だけ,と言う表現はあまりに失礼だが,これは実によく決まった「型」を見せてくれている感じとでも言おうか。

しかし「椿三十郎」のラストは違う。今では当たり前の凄絶な擬音と血しぶきだが,このシーンの迫力は並大抵のものではない。そもそも刺激のバーゲンセールみたいな安っぽい作りとは違うのだ。わかっていても息をのむ迫力である。

サイド2チャプター47で37分57秒からのわずか1秒にも満たない一瞬の衝撃である。三十郎と好敵手室戸半兵衛のおよそ30秒にわたる息詰まる無言の対峙。緊張感が極限まで高まった瞬間の出来事だ。三十郎の抜刀の速度はすさまじく,コマ送りで見ても刀の部分は流れてしまってよく見えない。

前作「用心棒」に比べるとユーモラスなタッチで,軽妙なストーリーという感のある作品だけに,このラストの衝撃は半端ではない。まあそんなことはここであらためて書くまでもなく語り尽くされていることだが。

解説によると1962年1月1日封切りとなっている。お正月映画でこんな面白いものをやってくれたら客は喜び興奮しただろうなあ。これで96分しかないのだからいかに緻密な設計と編集がなされていたかがわかる。

東宝から出ている黒澤映画のLDシリーズは解説も資料性もしっかりしているが,価格的にちと高価である。もう少し低価格で出してほしいものだ。

椿三十郎 TLL 2415
発売元(株)東宝