ローズマリーのパズル

■ローズマリーの赤ちゃん■

アイラ・レヴィンの原作はずっと気になっていたけどついに今日まで未読のままになっているのが「ローズマリーの赤ちゃん」である。映画版(68年作)はたぶん深夜劇場か何かで見たはずだが,かなり記憶は怪しくなっていた。そこへDVDの登場である。

正直,圧倒されてしまったことを告白しておこう。とにかく137分の長尺があっという間だ。SFXなどほとんどなく,破壊も轟音も怪物の咆哮もない。ドラマと演出,役者の演技だけで実に濃密な恐怖と戦慄の世界が構築されているのだ。いやあ,濃いねえ,これは。

同時に,今どきの映画がいかにハデハデな特殊効果に満ちているか痛感する。それはそれで楽しいんだけど,この演技陣の熱演を見てしまうと派手なビジュアル以前にやることがあるんじゃないか,という気になってしまうのだ。演技とか芝居といった映画の基礎体力とでもいうべき部分の厚みが段違いなのである。

初めての妊娠に神経をすり減らす若妻ローズマリーの緊張と不安,怪しげな隣人たちの挙動とちらつく悪魔主義者の影,そして日毎に募る恐怖……演ずるミア・ファローの表情やあの個性的な容貌が作り出す雰囲気はちょっとやそっとでは真似できない代物だが,彼女だけでなくどのキャラクターも本当に見事な芝居で嫌らしさや恐ろしさや疎ましさといったものを体現している。やっぱり役者の本分は演技だよなあ。

ミア・ファローというと僕はいまだに「フォロー・ミー」のテーマ曲が聞こえてくるくらいで,要するに彼女の映画はろくに見ていないわけだ。にも関わらず,ちょっと目つきのコワイ個性的な顔立ちの女優というイメージだけは強烈にあって,映画前半のやけにキュートな彼女が途中で髪をバッサリ切って超ショートヘア(しかも暗い表情)で登場するや「おお,これだ,これこそミア・ファローだ!」とひとり納得してしまった。どっかで固定観念が刷り込まれてしまったのだろうか。

さて,この映画で物語の謎を暗示する鍵となるのがアナグラムである。アナグラム,つまり綴り換えだ。ローズマリーは自宅のゲーム盤のコマを使ってある登場人物の名前が実は伝説的悪魔主義者の名前のアナグラムであることを知るのである。DVDではチャプター23。特に90分04秒あたりからが盛り上がるぞ。いいねえ,このぞくぞくする感じ。

この場面で登場するアナグラムのゲーム盤だが,あれはその筋では有名なスクラブル(Scrabble)というボードゲームだと思う。僕はやったことはないけど日本でも売ってたそうだ。映画の中になんの説明もなしに登場しているところをみると,あちらではすごくポピュラーなパズルなのだろう。

監督はロマン・ポランスキーだけど,同じスケベなオヤジでもロジェ・ヴァディムは健全だなあ,対してポランスキーはかなり危ないやつかもしれんなあ,などと感じるのは例の事件の記憶がまだ残っているせいだろうか。

ローズマリーの赤ちゃん PDH-40
発売元(株)パラマウント ホーム エンタテインメントジャパン