女神と死神とライオンと

■ロザリンとライオン■

洋画を見ていてすごいな〜と感じる瞬間はいろいろある。豊富な資金と物量を見せつけられたときとか精緻なSFXを見たときなどは,彼我の制作条件の違いにため息が出る。しかしマジで「かなわんな〜」と思うのは,その役にかける俳優のプロ根性のすごさを目の当たりにしたときである。

ジャン=ジャック・ベネックス監督の「ロザリンとライオン」を見れば一目瞭然だ。ライオンに魅せられ,やがて猛獣使いのスターを目指す若い男女の物語。どこか奇矯で神経を削るような切迫感に包まれたサーカスの世界。静かに緊張を高めていくストーリーはラストで圧倒的なハイライトを迎える。

すんげえ〜ここまでやる!

監督はこのシーンをやりたいがためにこの映画を作ったに違いない,とさえ思わせるライオンのショーのシーンだ。サーカスを舞台にした映画も猛獣使いを演じた俳優も今までにいくらも前例があるが,このクライマックスは掛け値なしにいまだかつてなかった美と官能と緊張の10分間である。このシーンのためだけにでもLDを買う値打ちが十分にある。

ここでヒロインのイザベル・パスコはほとんど半裸のコスチュームでライオン使いの女神として登場する。なまじっかのヌードより遙かにセクシーでエロティックだ。スタンドインではなく本人である。ライオンももちろん本物だ。

これはすごい。見ている方が緊張する。いくら訓練されたライオンで周到な準備を重ねて撮影に臨んだとしても,裸同然の姿で猛獣のオリの中に飛び込む勇気が日本の女優にあるだろうか。

相手はライオンだ。機嫌がよくてもじゃれつかれただけで命にかかわる。デリケートな肌を無防備でさらすのは,少なくとも美を生命とする女優にとっては二重の意味で命がけである。にもかかわらず文字どおり裸でその緊張に挑んだ彼女のプロ根性はたいしたものだ。

LDではサイド2のチャプター10と11の10分間である。ここはもうひたすら美しく官能的なイザベル・パスコの姿態とライオンたちの息が止まるような演技を見つめるほかはない。死神の衣装で彼女たちを異界へと導くのはその恋人である。女神と死神とライオンが招き寄せる生と死と幻想の一幕はまさに永久保存版であろう。

ロザリンとライオン KYLY-69006
発売元(株)クラレ