20倍速ヒロイン

■リターナー■

昔からフィクション(特にSF)の世界には様々な秘密兵器が登場する。既に実現したもの,とても実現しそうにないもの,光学兵器のようにどちらとも言えないものなどアイデアもリアリティもいろいろだ。現在はともかく,かつてはこういう妄想は男の子たちの占有物であり,僕などもおおいにのめり込んだものである。

それら秘密兵器についての詳細な分類や考察などは目にしたことがないが,中には変わりダネもある。銃砲の類ではなく"時間"を制御することで敵を出し抜くというタイプもそのひとつだ。かなりな反則アイテムだという気もするが,実はこれ昔からけっこう人気がある。

大別すると,本当に周囲の時空間を制御して時間の流れに干渉するタイプと,使用者自身が超高速で動いて相対的に時間感覚を加速するタイプのふたつに分けられるだろう。前者はスーパージェッターのタイムストッパーみたいなやつで,後者はエイトマンやサイボーグ009の加速装置が有名だ。有名だ……って例えが古いのは僕がトシだからである。悪しからず。

最近の映画「リターナー」(2002年)に登場するソニックムーバーというのは後者の典型だろう。一時的に使用者の体感速度を20倍に加速する,つまり周囲の動きが20分の1にスローダウンするという理屈だ。

そのリアリティはともかく,作中でも重要な小道具として活躍するので,描き方もいろいろ工夫されていて面白い。監督はCG屋さんなのでこういうシーンは張り切ったんだろうなという感じである。

異星人の侵略で滅亡しかけた未来の地球。過去に遡って最初の異星人の一体を始末することで後の禍根を断つ,という使命を帯びてヒロインのミリは21世紀初頭の世界へとやってくる。そして……というお話なんだが,例えば2084年のチベットでの戦闘シーンでこのソニックムーバーの効果を見ることができる。

それまで敵ロボットの撃ち出す弾丸や小型ミサイルがびゅんびゅん飛びまくっていたのが,人間にも避けられそうなスピードにダウンし,その中をヒロインのミリが駆け抜けていく,という場面だ。

DVDではチャプター9の28分05秒あたりから。時速30キロで動ける人間なら時速600キロになるわけで,数字的には20倍速というのは微妙なところかもしれない。200倍速なら文句なしだが,それでは本人が空気との摩擦で燃えるか潰れるかしてしまう……のか?

このシーン,飛んでくるのがどう見ても短いビームであり,それではいくら20倍速でも避けられんだろうという気もするのだが,まあこういうのは雰囲気だ。ほほーっと思えればよしとしよう。

日本の実写作品でこうしたメカメカなSF映画はたいへん珍しいので,SF少年のなれの果てとしては応援したいのだが,劇場でもっとヒットしてくれないと次に続かない。まだまだSF映画は難しいのかなあ。でもミリ役の鈴木杏は逸材だと思う。できればテレビなどで消費されずに映画女優として活躍してほしいものだ。

リターナー ASBY-2322
発売元(株)アミューズピクチャーズ/アミューズソフト販売