パムの世界

■ぼくのバラ色の人生■

僕は子供のころ相当重症のテレビっ子だったが,歳をとって集中力が失せたのか,最近はザッピング以外の見方はほとんどしなくなった。これから更に歳をとって一日中テレビの前でボーっとしている老後がくるかもしれない(うれしくないなあ)が,それはまた別の話。

さてそんなある日,チャカチャカとチャンネルを切り替えていた僕はWOWOWでやっていたある映画にふと見入ってしまった。映画は絶対に途中から見ない主義なのだが,なぜかこの時はリモコンを手放してそのまま最後まで見てしまったのである。

派手なドンパチもなく,目をみはるSFXが爆発するわけでもない,ただの悩める男の子のドラマの何が自分を引きつけたのかはわからない。それでもこれはぜひ最初から見たい!と思った。

それが「ぼくのバラ色の人生」だったのである。しばらくしてDVDのリリース告知を見たときは「よっしゃあ!」と気合いが入ったものである。

言ってみれば性同一性障害に悩む男の子と彼を取り巻く人々のドラマを現実と幻想を交錯させながら描いた作品,ということになるのだろうが,その不思議な吸引力みたいなものが独特なのだ。僕もこれに捕まった。途中から見ても逃れ難い何かがあったのだ。

女の子になりたいと願う7歳のリュドヴィック少年の繊細な面立ちとエピソード,特に2度出てくる髪を切るシーンの描写が印象的だ。もうぐぐーっと感情移入してしまう。そしてたかだかスカートをはきたい男の子がひとりいるだけでギクシャクしてしまう大人たちの偽善ぶりがおかしい。悲劇でもあるし喜劇でもある。普通でないものには盲目的に反発してしまう姿は親でも同じというところがまた辛辣だ。

それはそうと,この映画のヘンな魅力のひとつが劇中に登場する「パムの世界」という妙ちくりんなテレビ番組のシーンにあることは間違いないだろう。リュドヴィック少年のちょっと偏った性の幻想?を象徴しているのかもしれないが,普通の人間ドラマの中にこういうものが混ざるもんだから,「え?」ということになる。

えらく豊かなバストの妖精だか魔法使いだかのお姉さんが極彩色の世界をふわふわ飛びながら愛を歌う,というむむむな番組らしいのだが……いやーこれいったい何なんだろうね。ませた女の子向けのメルヘンショーなのか?印象だけはやたらキョーレツだぞ。

DVDではチャプター5の頭から。テーマソング(らしい)に合わせて踊るリュドヴィック少年の振りがなんともかわいい。そしてチャプター19の79分43秒あたり。ラストのひと波乱でリュドヴィック少年の母親がパムの世界と交錯するシーンだが,その気になって意味を探せばさぞいろいろな分析ができる……かもしれない。

ベルギー・フランス・イギリスの三国合作だそうだが,とにかく変わった魅力のあるフシギな映画である。未見の人はとりあえずレンタルでもどうかな。

ぼくのバラ色の人生 DVF-8
発売元(株)東芝デジタルフロンティア/日活