イオ式スカッシュ

■アウトランド■

僕は子どものころからSFファンだったので当然SF映画も好きだ。名作もいろいろあるしね。他のジャンルの映画に較べてそれなりに数も見てきたと思うけど,世代のせいか好みはやっぱりセンス・オブ・ワンダーに敬意を払った作品。何か現実の延長上を超えた部分がないとそれがいかに未来や宇宙を舞台にしていても満足できない。

つまり30世紀を舞台にしていてもそれがただの刑事ものやサスペンスでは燃えないたちなんだね。もちろんこれは単なる僕の好みの問題。

だから本来なら「アウトランド」みたいな映画は僕にとっては「うーん」と言ってしまいたい作品のはずなんだけど,でも実際にはけっこう気に入ってる。木星の衛星イオの鉱山で頻発する自殺や暴力事件の謎を追って保安官が苦闘するという話なんだけどドラマがなかなか骨太で印象的だったのだ。

企業ぐるみの犯罪を前にして見て見ぬふりをして楽に生きるか,馬鹿を見るのを承知で筋を通すか。主人公は保安官として後者を選ぶのだが周りの人々は難を恐れて誰も手伝ってくれない。そして孤立無援のまま最後の戦いへ……というお話なのでつまりこれはそのまま西部劇や犯罪もので覚えのある物語なわけだ。

それをショーン・コネリーが渋い魅力でぐいぐい引っ張っていくので最後まで見入ってしまう。いや話はたぶんこういう展開だろうとすぐに想像できるように仕掛けられているんだけど,それでも「まっとうな映画観たな〜」という気にさせてくれる。

結局,まともにドラマの演出がなされていれば意匠に関わりなく面白いんだという当たり前の結論に行き着いてしまうわけだが,そうなると今度は背景やセットやその他のSF映画らしいビジュアルのさりげなさがけっこう心地よい。派手なところはないし考証的にもちょっと?なところはあるんだけど,これはワンダーを描く映画ではないのだからこれでよしだ。

まあ,最初にわざわざ重力が地球の6分の1ってはっきり言っちゃうくらいなら画面の中の人々にはちゃんと6分の1Gで動いてほしいかなとは思うけどね。どう見ても1Gで動いてるのは変でしょ,と突っ込んでみたくもなるけど結局この映画はそういうところを見せたい作品じゃないってことだ。

名場面というわけではないけどちょっと印象に残ったのは主人公がスカッシュをやってるシーン。どう見ても1Gの動きだけどそれはまあ横へ置いといて……このスカッシュ・コートはボールが当たった壁が四角いプロックの形に枠が光るようになっている。それがいかにも何十年か前にデザインされた「未来」っぽい絵でね。矛盾した表現ではあるけど古典的未来とでも言うのかな。DVDではちょうどチャプター14の頭の部分。

僕はスカッシュが現在どの程度日本人になじみのあるスポーツなのか知らないが,この映画が作られたころ(81年)はどうだったんだろうね。昔「プリズナーNo.6」にクリケットが登場した時は野球圏の人間としてひどく奇妙なスポーツに見えたものである。このスカッシュのシーンも日米欧亜,文化の違いで印象がひどく違ってくるんじゃないかな。

考えてみるとショーン・コネリーはSFやその周辺作品にもけっこう出演している。いまや押しも押されぬ名優だがSF映画ファンのひとりとしては敬意を表したいところだ。

アウトランド DL-70002
発売元(株)ワーナー・ホーム・ビデオ