オカエリナサイ

■トップをねらえ!■

正確にはオカエリナサイのイの字が左右逆の鏡文字でないといけないのだが,フォントがないのでこのままでご勘弁。ガイナックスの名作「トップをねらえ!」のラストシーンである。

ファンには今さら解説も無用だが,美少女とSFとロボットというある意味由緒正しい日本アニメの血をきわめて濃厚に受け継いだ全6話のOVAである。当時,我が家に集う怪しげな友人たちと一緒に見たことを覚えているが,上映後「ううむ,よかった〜」「いやホントに」「泣けましたね」などと口々にコメントし合っていたものだ。今そんな光景を思い出すとちょっと恥ずかしくて笑えるが,あの頃はオタクの基礎教養みたいなタイトルだったのである。

元々「エースをねらえ!」と「トップガン」のパロディといったノリで始まったOVAの人気作だが,最終話にいたって必見の名作になってしまったのがこの作品だ。軽いキャッチボールのつもりで始めたらだんだん力が入ってついには渾身の全力投球になってしまったという感じだろうか。

恒星さえ食い尽くす宇宙怪獣の群に立ち向かうロボット軍団,そのパイロットは年若い少年少女ばかり……。まさに日本のアニメならではの世界なので気楽に見るのが本来の姿だと思うし,海外のSFコンベンションでも腕立て伏せに励むロボットがウケまくっていたと雑誌で読んだことがある。元々そういうノリなんだよね。

しかし巨大ロボットガンバスターが登場して以降,えらい勢いで話が転がり始め,みるみるテンションが上がっていくので最後はもう食い入るようにして見てしまった。テレビアニメやコミックの洗礼をたっぷりと受けた人々にのみ向けて作られたような世界だが,馬力で押し通す快感があった。面白かったな。

最終話,乾坤一擲の大作戦で怪獣軍団を葬ったヒロインたちはその代償に時空の彼方に飛ばされる。帰還できたのは1万2千年後の地球。もはや人類も文明も滅び去ったかと悲痛な思いでながめる地表に浮かび上がったのは……。

まさに日本のアニメーションだけが持つ類の感動であった。

この最終話は昔の戦争映画を模してモノクロ(画面も横長)で描かれているのだが,このラストシーンの後,美しいカラーが甦りエンディングへとつながっていく。主人公タカヤノリコを演じた日高のり子がもう抜群に上手くて泣ける。

僕の手元にあるのはLDボックス版だが,ディスク3のSIDE2フレーム44938あたりから。静止画も美しいCAV仕様がうれしい。音楽も情感豊かで,ここまで見てくるとサントラを買いに走ってしまうこと確実だ。ちなみにサントラの方もずいぶん面白い作りになっていた。

あのオカエリナサイのイの字が左右逆になっているのはきっと1万2千年もたっているので古代文字の情報を引っぱり出すのがたいへんだったんだろうな,などと想像すると楽しい。

余談だが,僕はあれを最初に見たとき,日本最古(世界最古でもある)のテレビ送信実験のエピソードも絡めてあるのかなと思ってしまった。あの有名な実験の「イ」の字は左右逆転していたと思い込んでいたからだが,ずいぶん後になって記憶違いだとわかった。証拠写真を見ると鏡像ではなくてちゃんと普通の「イ」の字になっている。どうして数十年もそんな思い違いをしていたのだろうなあ。

トップをねらえ!オカエリナサイBOX BEAL-623
発売元(株)バンダイビジュアル