ホラー映画のNOKKO

■スウィートホーム■

元レベッカのボーカルNOKKO。現在はソロとして活動しているが,なぜか彼女のキャリアの中であまり取り上げられないのが映画「スウィートホーム」である。これだけホラー映画がブームになっていながら再評価の動きが鈍いのはまことに遺憾なことだ。おお,思わず官僚や政治家みたいな表現を使ってしまったぞ。

そう,これは和製ホラー映画にあっては突然変異的な力作なのだが,なぜかこの作品の話をする人にお目にかかったことがない。面白いのに〜。

なんせあの伊丹十三製作総指揮(ついでに怪演),黒沢清脚本/監督である。傍流に見られがちだが,これは生きのよかった頃の伊丹映画そのものであると僕は見る。洋風のお化け屋敷ものにここまでストレートに挑んだ作品は邦画にはほとんど皆無だろう。

特にモンスターがはっきりと姿を現す以前の,序盤から中盤にかけての展開はなかなか怖い。古館伊知郎や黒田福美が悲惨な末路を遂げ,逃げ場のない恐怖はじわじわと迫ってくる。流血その他ホラーな定石もしっかり踏んでいるし,山城新伍や宮本信子(やはり伊丹映画だ)らベテランと並んでNOKKOがつたないながらも奮闘している。

実年齢よりかなり若作りといったら本人に悪いが,レベッカのボーカリストのイメージとは全然違って素直で可愛いお嬢さんというキャラクターである。当時はそのギャップが面白かったものだが,メイキング・ビデオを見ると衣装合わせの七変化など伊丹監督がごきげんなのが伝わってくる。女優としてけっこう面白いキャラクターだと思われたのではないか。伊丹監督も役者として楽しんでいるようだった。

怖いのは前半だが,NOKKOが最前線に躍り出るのはラストだ。モンスターに向かって「あるもの」を差し出しながら「帰って…」と告げるクライマックス。LDではサイド2の45分ちょうどあたりから。女優としては未熟かもしれないが,母親的宮本信子の熱演に支えられて成功していると思う。NOKKOが差し出したものが何であるかは自分の目で確かめてほしい。

88年作。もう10年前の作品になってしまった。エンドクレジットのNOKKOの名にはまだレベッカの肩書きがついている。劇場のパンフレットは冊子ではなく広げると1枚の広〜いチラシになるという珍しいタイプであった。その後この作品は権利関係で大きなトラブルを招いたようだが,中古LDでも見つけたら迷わず買うべし。

スウィートホーム TLL 2148
発売元(株)東宝