読書する女 最後の1冊

■読書する女■

ミュウ=ミュウ主演の「読書する女」は,劇的なドラマがあるわけでもないのについつい最後まで見入ってしまう変わった魅力のある作品だった。

しかし映画のヒロインであるコンスタンスと彼女が読んでいる「読書する女」という本の中の主人公マリーのふたつの世界が入り交じって描かれるので,今となっては物語の細部は思い出せない。ただでさえ合わせ鏡を見ているような作品だったからである。なにやら意味ありげな登場人物も多いし。

マリーは美しい声の持ち主。依頼を受けて訪れた先々で,本を読んで聞かせるプロの朗読家である。本を読んで聞かせることがこれほどスリリングで時にエロティシズムに満ちた行為になり得るというのが驚きだ。乾いた雰囲気の街を歩く彼女の,やけに軽やかな足取りが印象に残る。

彼女はさまざまな依頼を受け,いろいろな本を読んで聞かせることになるのだが,そのひとつひとつが奇妙で小さなドラマを生んでいく。そしてその彼女が物語の最後に遭遇する依頼人。彼が「読んでくれ」と差し出した本のタイトルは……。

ここではネタバレは避けるが,彼女は"読書する女"としてちょっとした窮地に追い込まれることになる。映画を転あるいは結へと一気に導く事件である。LDではサイド2の34分53秒あたりからだ。まだ十分入手できるので,ぜひともこの奇妙でおしゃれな世界を訪れてほしい。

余談だが,架空戦記物や伝奇ロマンに手を染める前の荒巻義雄はこういう感じの小説を書いていた。現在の氏のファンには想像もつくまい。ああ「白き日旅立てば不死」がなつかしい。

もう10年も前の映画だが,これは古びるとか古びないとかいうタイプの作品ではないので,明日見ても10年後に見てもやはり不可思議な魅力は変わらないだろう。ジャケットの"新しい時代の女性映画"というとらえ方はどうかなと思うが。

ミュウ=ミュウは瞳がきれいだ。

読書する女 C59-6342
発売元(株)日本コロムビア