やはり名曲モスラの歌

■モスラ■

ファンタジー路線で復活した平成モスラ,平成ゴジラシリーズでのメインキャラとしても人気が高いが,それもこれも元祖昭和モスラのすばらしさあってのことである。東宝スコープのワイド画面を優雅に舞う初代モスラの造形と演出は今見てもみごとだ。

そのモスラのインパクトをさらに増幅しているのが小美人ことザ・ピーナッツが歌う「モスラの歌」である。歌詞を書くわけにはいかないが誰でもご存じのあの曲だ。古関裕而作曲のあのメロディなくしてモスラの物語はあり得ない。

僕の初期版LDではサイド1の36分27秒あたりから彼女らの歌うシーンとなる。欲深な人間によって捕らえられた彼女たちはなんと歌謡ショー(!)をやらされているのである。なにしろ演じているのがザ・ピーナッツであるから歌手としての実力は段違いで,のちのコスモスたちとは声の張りもハーモニーも別物だ。

今の音楽シーンからすれば古色蒼然としたアレンジに聞こえるかもしれないが,これは秘境冒険小説なんて分野がロマンを持ち得ていた時代の作品なのだ。これでこそ正しいのである。

バービーサイズの二人が歌うこのシーン,合成もよくできていて感心する。サイド2の1分03秒あたりからもう一度歌謡ショー(やはり書いてて恥ずかしいなこの言葉)のシーンがあるが,ここでは彼女らを求めて海上を進むモスラの映像がかぶさって事態の急変を予感させる。うまい画面だと思う。

なお,怪獣映画空白の時代にあるイベントでリリーズ(かつての双子アイドル歌手ね)がこの役をやって喝采を浴びたと聞いたことがあるが,これは見てみたかったなあ。

もちろん怪獣映画としての派手な見せ場もあるのだが,ゴジラやラドンとは明らかに違う世界であり,幻想的で異様なイメージと大破壊が混在した独特の映像がすばらしい。サイド2の33分5秒あたりからの数分,緊迫したカット割りとモスラ成虫の出現に至るシーンは圧巻だ。美しく力に満ちている。

モスラの最初の羽ばたきで民家の屋根瓦が一瞬に吹き飛ぶシーンなど実に印象的だ。ワイド画面をゆったりと羽ばたきながら飛ぶその姿には柔らかさがあり,このへんのセンスは平成モスラにもぜひ望みたいものである。

僕はDVD版は持っていないんだけど,今なら当然のようにチャプターがふってあるかもしれない。いずれにしろこの時代の特撮映画にはちゃちさと同時にCGとは別のリッチさもある。買いだと思うよ。

モスラ TLL 2007
発売元(株)東宝