Good Morning の長回しダンスシーンの至芸

■雨に唄えば■

映画好きで僕などよりよほどたくさんの作品を見ていながら,なぜかミュージカルを受け付けられないという人が少なからず存在する。

突然歌い出したり,踊り出したりするのがヘンだというのである。しかもこういう人たちは「ウエストサイド物語」や「サウンド・オブ・ミュージック」といった近代ミュージカルは評価するくせに黄金期のMGMミュージカルになると敬遠してしまうのである。愚かな食わず嫌いである。

ジーン・ケリーやフレッド・アステアたちが競い合ったこれらザッツ・エンタテインメント時代の諸作というのはまことに幸せな作品群であって,アメリカ大衆文化の最良の遺産のひとつなのだが,徐々に失われた超文明と化しつつあるようだ。わざわざ超といったのは,そのダンスシーンに代表されるすばらしい芸が今ではとうていお目にかかれないほどすごいレベルに達しているからである。

ためしに名作「雨に唄えば」に登場するこのシーン,軽快な「グッド・モーニング」のメロディに乗って主人公3人組が歌い踊るこのシーンを見て欲しい。これを見れば現代の細かいカット割りでつないだダンスシーン(映画にしろミュージックビデオにしろ)が単に下手を隠すためのテクニックに過ぎないことがよくわかる。

ダンスは長回しで見せることができなければいけない。この「グッド・モーニング」のシーンを見れば誰しも納得できるはずである。ここまでできてこそ真の芸人,真のエンターテイナーなのだ。このほとんどワンカットに見えるダンスシーン(よく見るとそれなりにカット割はなされているが)に詰め込まれた楽しさと技術を見よ。ここでは編集テクによるダンスの補正はできない。上手い下手は隠しようもなく観客の目にさらされる。そしてジーン・ケリーたち主役3人組は徹底したサービス精神で歌い踊る楽しさを見せてくれるのである。

芸人とか芸という言葉は今では古くさい響きをもって受け止められることが多いが,そのすごさを実感させてくれるのが黄金期のMGMミュージカルなのである。これを見た後,今時のビデオや映画でダンスシーンを見れば,いかに貴重な文化が失われてしまったかがよくわかるだろう。

僕の持っている初期版LDではサイド2の10分15秒あたりから。感心にも古いLDなのにチャプターがふってあった。よしよし。

この作品,お話の方も圧倒的に面白い。隅から隅まで面白い。観客を楽しませるための演出がぎっしり詰まっている。中古でいいからぜひとも1枚持っておきたい名作だ。

雨に唄えば FY114-24MG
発売元(株)パイオニア