真壁六郎太 vs 田所兵衛

■隠し砦の三悪人■

昔の黒澤映画を見れば見るほど三船敏郎という人が並々ならぬお方であることがよくわかる。その存在感,骨太のたくましさ,男らしさ,とにかく現代にその後継者を捜すのは至難の業である。そうしょっちゅう引っぱり出して見ているわけではないが,どの映画であれ,ひとたび見始めると「いや三船敏郎って……」とうなってしまうのだ。

「隠し砦の三悪人」も三船敏郎の男臭さ爆発の痛快な時代劇だ。139分があっと言う間の面白さで,これが45年も前(今は2004年2月)の作品というのだから現代の映画製作者たちに同情してしまう。こんなものをコンスタントに作られた日には後輩の立つ瀬がないよねー。

確かにモノクロで50年代という時代色もあるのだが,芝居も映像も展開も第一級のものがみっしり詰まっている。CGなどない時代なので,画面に必要なものはすべて実物で調達して絵を作らなければならないのだが,使うべき物量はちゃんと使うという頼もしさが伝わってくる。

100人単位のモブシーンを実際に人間でやるのはたいへんな苦労があると思うのだが,例えば序盤の暴動シーンや中盤の火祭りのシーンのダイナミックでぜいたくなリソース(この場合は人間ね)の使い方は快感だ。黒澤明だから許されるのか,それとも邦画自体にそれだけの余力がある時代だったのか。

お話は周知のとおり。落城した某国のお家再興の軍資金を敵中突破しながら隣国まで運ぶ困難な仕事に選ばれたのが,なんと小心で強欲な百姓二人組。彼らをうまく脅したり欲で釣ったりしながら三船扮する侍大将真壁六郎太は,世継ぎである勝ち気な姫君を落ち延びさせるべく奮闘する。

面白さは保証付きなので未見の方はぜひご覧になってほしいが,先にも書いたようにここでも三船敏郎の存在感は見事だ。なんか現代人とは思えないくらいである。彼が好敵手の田所兵衛と槍の一騎打ちをするシーンなどは本物の試合を見ているようで緊張感も半端ではない。

うちの古いLDではサイド2チャプター29の34分47秒あたりから。六郎太が「やるか」と誘い,兵衛が「まいった」と認めるまでの約7分半,見事な勝負の一幕であった。気合い,迫力,様式美,構図,緩急といった様々な要素ががちっとかみ合っているのである。見どころだよ,これは。

道中,姫様に口をきかせると怪しまれるので彼女は人前では「唖(おし)」のふりで通すことになるのだが,今では公的には口にできないこの言葉,劇中では唖だ唖だと連呼される。テレビではなかなかオンエアできないだろうな,とつまらんことを考えつつ,しかししゃべらない時の姫君の方が僕には魅力的だった。

主役の男3人が座り込み,その横で姫が横になって寝ている雨宿りのシーンがあるのだが,その4人の構図がひどく印象的だった。

隠し砦の三悪人 TLL-2403
発売元(株)東宝