メトロポリスのマリア誕生

■メトロポリス■

西暦1926年というのは大正15年すなわち昭和元年でもある。およそ4分の3世紀も前になるのだが,この年,映画史に残る名作「メトロポリス」が誕生している。うむ,やはり欧米は進んでいたのだなあ。

フリッツ・ラング監督によるこの作品,その名は知っていても実際に見たという人は意外に少ないかもしれない。入手は容易な方だが,サイレント時代の作品ということで若い世代に積極的に求められるようなものではないからだ。

しかしこれはぜひ1度は見ておくことをお薦めしたい。70数年も前にこれだけのビジョンを作り出していた人物がいたことはまさに驚異である。まぎれもなく天才の所業だ。暗鬱な未来都市のイメージは後のあの作品この作品にさまざまな影響を及ぼしていることが誰にでも感じられるだろう。そうか!ここがあの風景の原点なのか,と悟るものがひとつやふたつはきっとあるはずだ。

そして「メトロポリス」とくれば人造人間マリアである。

虐げられた労働者たちの心のオアシスともいうべき女性マリア。支配者側はその彼女の姿をコピーした人造人間を作り,民衆をコントロールしようとする。しかし事態は思わぬ方向に……というお話だが,なんといってもこの人造人間の造形がすばらしい。

作中,実に美しいメタリックボディ(でもってセクシーなのだ!)の人造人間に生身のマリアの姿をコピーする場面がある。囚われて(たぶん裸で)実験台の上に拘束されたマリア。昔から美女はマッド・サイエンティストの餌食だったんだなあ。いやはや。しかしこのシーンのビジュアルは特筆ものだ。実によくできていて驚く。人造人間マリア誕生の瞬間だ。

その優美なボディのまわりを電光のリングが包み,ゆっくり上下する映像など,当時どんな技術で作ったんだろう。オプチカルの合成なんてこの時代にあったのかな?それとも手描きのアニメーションだろうか。

DVD版ではチャプター9の冒頭3分ほどだ。必見である。

マリア役のブリギッテ・ヘルムという女優さんは存在感があり,特に偽マリアとしての演技は見事で,歪んだウインクとでも言おうか,いびつに片目をつぶる仕草が不気味だ。首の動かし方なども異常な雰囲気があって「おおー」とうなってしまうぞ。

この作品にはジョルジオ・モロダー(フラッシュダンスの人ね)が音楽をかぶせ,ついでに画面に彩色したバージョンというのもあってこれは以前LDでリリースされていた。オーソドックスなDVD版とどっちがいいかは好みの問題だろうが,印象はかなり違う。見比べてみるのも面白いかもしれない。

メトロポリス CPVD-1021
発売元(株)カルチュア・パブリッシャーズ/ビームエンタテインメント