めまいの中の悪夢

■めまい■

年とともに評価が高まり,いまや芸術とまで言われるようになったヒッチコック監督の諸作。中でもベストの声も高い「めまい」はスリリングな傑作であるが,最近フィルムの修復が行われたおかげで質の高いLDを入手できるようになった。

謎とサスペンス,そして美しい映像が渾然一体となった本編の内容は自分の目で確かめていただくとして,この作品にはもうひとつ面白い見所がある。主人公が陥った悪夢の様子を描いたシーンだ。

映画をご覧になった方はご存じだと思うが,この部分,かなり本編と異質で,後の「ミステリーゾーン」みたいな印象である。それまでのリアルなサスペンスとは違う質感だ。あの花びらがアニメーションとなって舞い散る場面からの数分間である。不安を強調する赤の世界。

妄想が交錯し,主人公の木訥な顔立ちが悪夢にさいなまれて歪む。デジタルもSFXも見慣れた今の映像表現からすると平板な合成なんだが,これが妙に迫力がある。演じているのがジェームズ・スチュアートというのも効果的だ。

ここはポケモン騒動で有名になった赤いフリッカーそのもののシーンなので,今テレビでオンエアするとしたら盛大な警告がなされるかもしれない。

LDではサイド2チャプター12の44分8秒あたりから。なんせサスペンス映画である,実写の中にアニメーションを持ち込むのはかなり危ない試みになると思うのだが,実に印象的なシーンであることは間違いない。ヒッチ先生,効果的に見せるために様々な実験にトライしていたんだなあ。

主人公と謎めいたヒロインの危険なラブ・ロマンスでもあるこの物語,プロットだけではなくシーンのひとつひとつに見所がある。かなり集中して見ていても1度ですべてを見尽くすのは難しい。友人とあれこれ話題にするにはもってこいだ。

フィルム修復にまつわるメイキングや結末のアナザーバージョンなど,サプルメントも楽しい。コレクターならずとも必携だろう。

スペシャルコレクション めまい PILF-2532
発売元(株)パイオニアLDC