マックィーンの柵越え

■大脱走■

テレビの洋画劇場と聞いて思い浮かぶ映画といえば世代によってまちまちだろうが,ちょいと年輩の人にとって「大脱走」などはその筆頭ではなかろうか。

僕自身も洋画劇場というとこの作品の,それも次週予告で流れているところが目に浮かぶ。当時は精悍なスティーブ・マックィーンの風貌がたいへん人気があったのだ。二枚目とはほど遠いマスクだが,テレビで(そう,僕たちにとってはテレビだった)見る彼はまことにカッコよかった。

この「大脱走」は映画ファンなら必携の名作だが,テレビでしか見たことのない人にとって,DVDなどでオリジナルを見ると衝撃を受けるかもしれない。質量ともに実に豪華な大作であって,これをテレビで見るということ自体が不自然なのだと悟るはずだ。

なにしろシネスコでものすごくワイドな画面なので4:3のテレビではほとんど画面中央の3分の1くらいしか使っていない。ワイドテレビでも上下に相当な黒味が出るだろう。これを小さなテレビで見ていた日にゃ悲しくて思わずスイッチを切りたくなるに違いない。

これが映画のグレードというものか。

それはさておき,テレビでさんざんオンエアされたこの映画,次週予告などで必ず登場するのがマックィーンのバイクシーンだ。特に,勢いをつけて鉄条網の柵を飛び越える場面は有名だ。最初にテレビで見たのがいつのことか覚えていないが,このシーンの話題で友人たちと盛大に盛り上がったことは記憶にある。やはり「大脱走」といえばコレだよね。

手持ちのDVDではチャプター28の152分12秒というところか。テレビの洋画劇場の寝ぼけたような画質と違って実にクリアだが,僕はここであれっ?と思ってしまった。かつてテレビで見たそれは4:3にトリミングされているせいかもっと近くでマックィーンのジャンプを見ていた記憶があったのだが,本当はずいぶん(カメラが)引いているんだな。

ありゃあ,こんなだったっけ?てな感じだが,テレビ版の印象がいかに強烈に刷り込まれていたか,あらためて思い知らされた気がする。

たぶん皆さんも1度や2度はテレビで「大脱走」をご覧になったことがあると思うが,機会があればぜひオリジナルのシネスコサイズで再見されることをおすすめする。プロジェクターなどで大画面を実現している人にとってはなおさらだ。

こういうものはやはりノーカット(172分)でじっくり楽しみたいね。

※ちょっと補足。DVDにも収録されているドキュメンタリー「RETURN to THE GREAT ESCAPE」にはこのシーンの撮影秘話も登場します。マックィーン自身がやることには保険会社がOKを出さなかったので彼のレース仲間のバド・イーキンズというあんちゃんがスタントをやったのです。

スチルを見ると風貌も当時のマックィーンにそっくり。これがバイク野郎の顔ってもんでしょうか。なお,このシーンの少し前,マックィーンをバイクで追いかけているドイツ兵は実はマックィーンがやっているそうです。

大脱走 DL-56680
発売元(株)ワーナー・ホーム・ビデオ