西洋式飛檐走壁

■マトリックス■

これを書いているのは2003年11月5日,映画「マトリックス」シリーズの完結編が公開される日である。それにちなんで,というわけでもないが(少しはあるかな)今日はこの第一作にちょっと触れてみたい。

ご承知のとおり,この作品以後,CGとワイヤーワークを組み合わせたマトリックス風アクションは大流行している。他作品への影響力という点ではまさに画期的で,この呪縛を逃れるには相当な工夫が必要だろう。何をやっても「マトリックスみたい」と言われるのでは作る側もたいへんだ。

大ヒット作なので今さら内容をあれこれ言ってもしようがないが,あの派手なアクションに目を奪われて設定やストーリーを誤解している人も案外いそうである。実は僕も最初見たときには構成がいまひとつよくわからなかった。ただでさえ暗いシーンが多いのに,出かけた劇場のスクリーンがひときわ暗かったのもまずかった。僕は目が悪いのだ。

結局,後日DVDでじっくり見て納得したが,できれば劇場でリアルタイムで感動したかったなーと思う。

が,まあそれはそれとして,この映画のアクションはさすがに楽しめた。例のストップモーションからぐるんとアングルが変わるテクは今じゃCMでも珍しくないが,こうして最初にやって見せてくれた本作のスタッフには拍手だ。この業界で他からマネされる立場ってのは自慢していいと思う。

しかし僕がそれ以上にうれしかったのは主人公たちが壁を走るアクションだ。映像的にもスムーズな動きで,インパクトも大きかった。「おお〜,やるじゃん!」とつい口元がゆるんでしまった。あれは中国拳法でいうところの軽身功の飛檐走壁(ひたんそうへき)というやつだよね。つい昔愛読した「拳児」を思い出してしまったよ。

もちろん,現実には重力に逆らってあの体勢であそこまでの動きは無理だろうが,それを見せきってしまうケレン味が快感だ。娯楽作品の見せ方のツボである。アクションはケレンにこそ華があるってもんだ。僕の初期版DVDではイントロのチャプター1の3分11秒前後のトリニティのアクション,あるいはチャプター29の102分25秒あたりから先の派手な銃撃戦のシーンで見分できる。

言うまでもなく日本のアニメにならあのセンスがあるが,残念ながらそのノウハウを実写(邦画)は活用しようとしない。ハリウッドはちゃんと学んでいるというのになあ。こういう映画を見るとそこいらがちょっと悔しいのである。

マトリックス DL-17737
発売元(株)ワーナー・ホーム・ビデオ