火星の人面岩

■ミッション・トゥ・マーズ■

長い間ミステリアスな空想をかきたててくれた火星の巨大な人面岩。信じる信じないはともかく,誰でも一度はその写真を見たことがあると思う。その手の話題が好きな人にはいつまでもミステリーであってほしかったはずだが,残念ながら98年の新たな調査によってただの岩山らしいと判明してしまった。

まー残念ではある。けっこう面白い物件だったのになあ。そのあたりの事情は「火星人面岩」というキーワードで検索すればぞろぞろとヒットするので興味のある方はお試しあれ。

しかし惑星表面に横たわる巨大な顔というイメージはなかなか刺激的だ。壮大かつ不思議で美しい,あるいは不気味か。

ブライアン・デ・パルマ監督の「ミッション・トゥ・マーズ」にもこの火星の顔が登場する。こちらのデザインは映画オリジナルだが,本物(?)の人面岩と同じく火星のシドニア地区が舞台である。字幕でシドニア地区と出ただけで「ん?」と思った人はなかなか通な方々であろう。僕は全然気が付かなかった。

献身的にミッションに立ち向かう人間たちと壮大な先史文明とのコンタクトを描いたストレートな物語だが,屈折した人間関係や哲学的な深みといったものよりは明解であることを選んだ作品だと思う。すごくわかりやすい分,もうひとひねりを望む人には不満かもしれない。ただ,この映画の映像はなかなか美しく,クオリティの高いイメージを生み出しているので僕はそっちの方で十分楽しめた。

封切り直後に劇場の大スクリーンで見たせいもあるが,やっぱり宇宙SFは大画面だよなあ,と実感したものである。途中,火星軌道上の宇宙空間にポツンと浮かんだ4人の飛行士たちの映像があり,その広大な空間に取り残された感じは「ほお」という見事な出来だったのだが,それも大きなスクリーンで見てこそである。大空間それ自体がはらむ圧迫感や高所恐怖症的な怖さは小さなモニタではなかなか伝わるまい。

それはともかく人面岩である。前記のとおり,映画の中のそれはバイキングが送ってきた写真とは違ってずっと細面で優美な顔だ。探査船や宇宙での描写に較べるとアングルに乏しいせいで巨大感がいまひとつという気もするが,僕自身はこのデザイン,けっこう好きである。

DVDではチャプター5の20分20秒あたり。後半ではひんぱんに登場するけど,顔の正面というか表側からのアングルはここがいちばんだ。クライマックスの一連の流れは傑作のインパクトを期待する人には物足りないだろうが,やはり映像の美しさはなかなかのものである。

シリアスな宇宙SFで異星人のデザインをやるのは難しいと思うが,ここに登場する先住種族のそれは「未知との遭遇」のちょいと俗っぽい発展型,あるいはクラシックなSFマンガ風だ。明解すぎるかもなあ。まあ未知との遭遇2000年バージョンと思えばあの涙もいいかもしれない。

ミッション・トゥ・マーズVWDS3072
発売元(株)ブエナ ビスタ ホーム エンタテインメント