私の自信作です!

■東京上空いらっしゃいませ■

DVDは躍進,LDは急速に退潮という現在のソフトの状況でもっとも手薄になってしまったのは中小規模の邦画作品ではないだろうか。小品ながらチャーミングな佳品というのは捨てがたいものだが,邦画ではそんなタイトルがいくつも眠ったままだ。

そういった作品がきわめて入手しにくいというのはとても残念な事態だと思う。

牧瀬里穂のデビュー作「東京上空いらっしゃいませ」はそんな佳作のひとつだ。いかにも相米慎二監督らしい見え方,見せ方の映画で,80年代後半の雰囲気や元気いっぱいとは言えないがちゃんと生きてるよといった当時の邦画の手触りがこもっている。

これは90年の作だが,2000年の今再見すると作中の世界がなんだか「プチ」な感じで愛おしい。牧瀬里穂はとても可愛くてよく動く。上手いとか下手とかいうのではなく,ああこの若い女優さんはとてもいいね,と喜びたくなる感じだ。

何しろ死んでしまった女の子の役である。一時的に現世に舞い戻っているとはいえ,彼女の背には常に死の影がつきまとっている。たから,ことさらに元気のいいセリフ回しがかえっていつ折れてしまうかわからない危うさをはらんでいて愛しいのだ。フッチン(中井貴一)ならずとも抱きしめたくなるではないか。

さて,相米監督といえば長回し。長ーいワンカットを使う監督さんはいくらでもいるはずだが,それでも長回しとくれば相米監督だ。この映画でも印象的な長回しがいくつかあるが,やはりここが好きだ。ユウ(牧瀬里穂)がバイト先でハンバーガーを作るシーンである。

バイト始めたばかりなのにひとりで店番をすることになった彼女の前にさっそくの客。そこでドタバタしながら客の注文に応じてハンバーガーを焼くことになるのだが,その一部始終をワンカットで見せてくれるのだ。パンをはねとばし,パテをひっくり返す彼女のとんでもなく荒っぽい手際がすごくおかしい。そうしてできあがったえらく雑なハンバーガー,当然客たちはうえーっと抗議するのだが,ここで彼女いわく

私の自信作です!

いやもう最高ね。続けて「おいしいんです」という笑顔ははつらつとしてて無類の可愛らしさである。むしろ,彼女の生き生きとした姿があまりにも魅力的なので,やがてくるであろう別れの予感が見ているこちらの胸を曇らせる。

LDではサイド2の7分40秒あたりから10分25秒くらいまで,彼女の奮戦ぶりをその目で優しく見守ってあげよう。

それにしても,と思う。日本映画界にもっともっと活気があれば,牧瀬里穂にもかつてのアイドル女優たちのように幾多の主演映画があり得たはずだし,彼女以外にも花開くべき新人女優たちの登場があったはずなのだ。その多くがついに時を得ることなく今にいたっているのはまことに惜しい。

ついそんなことを考えてしまう愛すべき映画なのである。

東京上空いらっしゃいませ JSLD22736
発売元(株)ケイエスエス/日本ソフトシステム