月面車の実物を見る

■スペースディスク■

かつてLDでは教育/教養分野での展開も図られていたため,企画ものの映像全集的な作品がいくつもリリースされていた。それらはLDの大判ジャケットを活かした作りと詳細な解説書,何より貴重な映像ですばらしいライブラリ(最近はアーカイブと呼ぶらしい)になっており,映像コレクターにとってはたいへん魅力的なタイトルであった。

何しろ普段なかなかお目にかかれない映像が次々に登場するので実に興味深いのだ。

たとえば「スペースディスク」というシリーズがある。番外編まで含めると最終的に何枚出たのか知らないが,初期の全5巻がシリーズ本編だと思う。スペースシャトルの全貌とそのミッション,有人月面探査,太陽系,そして地球というテーマで膨大な写真と動画データを収録したもので,その資料的価値とともに美しい映像の数々が魅力だった。

付属資料も詳細で,本物のみがもつ存在感とライブラリとしての価値が詰まった傑作シリーズだ。

最近はシャトルにもハイビジョンカメラが持ち込まれ,美しい映像をリビングで見ることができるようになった。宇宙から見た地球の美しさは筆舌に尽くしがたいものがあって,そういうのをテレビでやってるとつい見入ってしまう。しかし,このディスクに収められた写真の1枚1枚には子供のころ見たアポロの月面着陸時の興奮をアルバムに収めたような,そんな雰囲気があってまた格別だ。

アポロの映像というと月面からのボケボケの中継をイメージする方も多いだろうが,ここに収められた月面での映像,特にスチルは予想以上にクリアで驚く。まるでSF映画のワンカットみたいだ。72年のアポロ17号による映像なのでもう30年近く前のもの(今は2000年6月)なのだが,すでに人類はここまでやってたんだなあと感動してしまう。

LRV(Lunar Roving Vehicle)単にローバーとも呼ばれるこの本物の月面車,有人の月探査を知らない世代には映画みたいでかえって驚きは少ないかもしれない。しかし繰り返すが,これは正真正銘本物の月面探検車なのである。キミたちが生まれる前に人類はこんなことをしていたんだぜ。

ここには火星に感じる謎と神秘の感覚はあまりない。荒涼とした月面の風景と暗い空(でも昼間であり地表は明るいのだ)やクレーターの向こうにポツンと浮かぶ地球の姿が印象的だ。そんな風景の中のローバーの姿はひどく事務的に見える。

LD「スペースディスク」第3巻「APOLLO 17」ではサイド2,特に冒頭のミッションフォトと呼ばれる静止画集でこの月面車の姿を見ることができる。倉庫で使われている小さなカートのようなコンパクトな作り,4つのタイヤ,傘みたいなアンテナ,その傍らにはスペーススーツで着膨れた宇宙飛行士と星条旗,足元には何万年も残るかもしれない月面の足跡……。

万事経済優先の今ではもう望み得ない光景かもしれない。生きているうちにこんなシーンをまたテレビで見ることができるだろうか。

SPACEDISC Vol.3 APOLLO 17 SS098-0013
発売元(株)レーザーディスク/パイオニア