風が吹けば桶屋がもうかる式展開

■ロスト・チルドレン■

ジュネ&キャロ監督の「ロスト・チルドレン」は実に印象深い映画だった。異様な登場人物と薄暗い世界で展開されるグロテスクな物語,可憐な少女の恋心と夢幻の夜。まさに美しい悪夢という感じの作品である。分析的な見方で点の辛い評もあったが,僕はこの異様なイメージとヒロイン(この娘がまたすばらしくて!)の魅力に文句なしの賛辞を捧げたい。

これは夢泥棒の話であるから夢そのもののような不条理な展開が特徴なのだが,その悪夢のような世界の中で出会った少女ミエットと心優しい大男ワンのふれあいがまことに美しい。月の光が似合うカップルである。

さてこの映画では異様なキャラクターが次々に登場するが,物語の展開もまっとうではなく,全然先が読めない。通常とは違う因果で万物が動いているようだ。その特徴がもっともよく出ているのが物語中盤,ミエットがシャム双生児のこわいおばさん姉妹に追いつめられるシーンだ。

絶体絶命のミエットの1滴の涙が,巡りめぐって途方もなく巨大な現象に発展するのだが,ここがまさに風が吹けば桶屋がもうかる式の大ボラ展開で圧巻だ。普通の映画でこれをやったら「おいおい,そりゃーないだろー」と言われるだろうが,この別の因果律を持った「ロスト・チルドレン」の世界では夢の力として有効なのである。

未見の方のためにその具体的な展開については書けないが,うひょーと驚くこと間違いなしのシーンだ。LDではサイド2チャプター16の22分36秒あたりから。この美しくもグロテスクな夢の世界にふさわしい不条理さだが,実はこの前後の展開も胸に迫るものがあってとても印象的だ。

なかなか話が見えてこない映画なので,雑念の多いときに見ると睡魔に襲われる人がいるかもしれないが,暗色系で力のあるイメージを堪能できるみごとな作品である。これを見過ごしているようではどんなコレクションも未完のそしりを免れない。ぞひともそろえておきたい1枚だ。

それにしても少女から大人の女まで,フランスの女優さんてほんとにきれいな人がそろっているなあ。

ロスト・チルドレン PILF-2260
発売元(株)パイオニアLDC