ドクロメンガタスズメの繭

■羊たちの沈黙■

久しぶりに「羊たちの沈黙」を引っ張り出して見た。これを書いているのは2006年の2月だけど,前回見たのはもうずいぶん前,最初のDVDが出た時だったかな,いやもしかするとLDのころだったかもしれない。

とにかく面白いし,スリリングだし何度見ても「うおお」と戦慄を覚える。普段はこの手の作品にはなかなかオスカーの主要部門はいかないんだけどね,アカデミーのお偉方にとってもよほどインパクトがあったんだろうなと思う。

今さらストーリーを語ることはしないが,異常な動機を抱えた連続殺人鬼を捕らえるためにそれ以上の悪の力を借りるという禁断の道に踏み込んだヒロインの危うさがすごくいい。

以前見た時にはジョディ・フォスター扮するクラリスが主人公として苦闘するスリラーという印象だったんだけど,今見るとハンニバル・レクターのキャラクターが際立っていることをあらためて感じる。レクター博士は異常な悪の天才というより万能の悪の超人といったところかな。世間を震え上がらせる連続殺人鬼も彼の手の中で踊っているだけという圧倒的なすごみがある。

映画本編の方はいろいろ印象深いシーンが多いけど,作品全体を象徴するシーンとして被害者の喉の奥から蛾の繭が発見されるシーンが忘れられない。死体を前にしたかなり気持ち悪いシーンだけど不気味さと妖しさがドンと顔をのぞかせる名場面だと思う。

あれはアジア産のドクロメンガタスズメという蛾の繭ということになっているけど,いやー気持ち悪かったね。DVDではチャプター10,だいたい44分55秒あたりかな。

ジョディ・フォスターは知的な美貌が際立っている人だけど,最近新作のキャンペーンで来日した彼女を見てるとますますそのインテリジェントな美しさに磨きがかかっている感じ。この人は歳をとるごとにきれいになっていってるみたいだ。これほどはっきり知性が顔に表れるタイプは珍しいと思う。年老いてもレニ・リーフェンシュタールみたいな感じになるんじゃないかな。

余談だが,こうして少し前の名作を見ているとある時期を境に「壁」ができたことを意識してしまう。言うまでもなくネットと携帯電話の普及だ。この映画にしてもファックスはあるけどメールは一般的ではなく,電話はまだ大部分が固定式だ。映画自体の面白さはいささかも古びていないけど,携帯がある世界ではもう通用しないドラマ作法がずいぶんあるなあと感じる。

この十数年でさりげなく世界は変わった。

羊たちの沈黙 - 特別編 - GXBA-15907
発売元(株)20世紀 フォックス ホーム エンタテイメント ジャパン