カルキン坊やと天国への階段

■ジェイコブス・ラダー■

夢と現実の狭間を描いた作品はいろいろある。名のある傑作からただの夢オチまで,誰しも思い当たるタイトルのひとつやふたつはあると思う。特に,夢なのか現実なのか判然としない,夢から覚めたと思ったら実は……というような「胡蝶の夢」型の作品はカルトな人気作になったりする。

夢というのは創作を志す者にはなかなか魅力的なテーマなのだ。最も手近でプライベートなファンタジーへの入り口だからね。

90年の作品「ジェイコブス・ラダー」はそうした典型的な「胡蝶の夢」型の映画である。ただし,とびきりダークで不快な悪夢編もしくは地獄編といった趣の作品だ。実はもうこれだけでネタバレしてしまっているのだが,どうせこのくらいはレンタルビデオのパッケージの短い解説だけでもピンときてしまうのだから乞うご容赦である。

ベトナムの戦場にいる自分とニューヨークで暗い日常を過ごしている自分のどちらが現実なのか,主人公の悪夢の彷徨が描かれるこの映画,とても心地よい作品とは言えない。しかし,後で考えてみると夢の世界独特の展開をうまくとらえているなと感心する場面がいろいろある。主人公がストレッチャーで病院の廊下を運ばれていくうちに周囲の様子が徐々に不気味な変貌を遂げていくシーンなど心当たりのある人は少なくないはずだ。

さて,主人公は最後にすべてを受け入れて「成仏」する。このとき登場する天国への階段が自宅の階段であり,幼くして死んだ自分の息子がその案内役であるというのが暗〜いこの映画の唯一の救いかもしれない。この幼い案内人がその小さな手で苦悩する主人公を抱きしめ,静かに階上(つまりは天国)へと導いてゆくシーンは印象的だ。

DVDではチャプター26の105分20秒あたりから。暗鬱な物質文明に閉じこめられたアメリカ人はあんな風に救われることを心の底で切望しているのだろうか。

この息子役が「ホーム・アローン」で人気者になる以前のマコーレ・カルキン坊やなのだが,あまりにも可愛いくて繊細な風情には驚いてしまった。非常に重要な役どころにもかかわらず,彼の名がクレジットにないのは不思議である。上から4番目くらいのところに名前があってもおかしくはないと思うのだが。

ここで使われている「ジェイコブス・ラダー」(Jacob's Ladder)というタイトルの由来は聖書からだが,以前別のところでも聞いた覚えがあってようやく思い出した。「パウダー」という映画の中で,学校の科学の授業で使われた電気の実験装置が同じ名で呼ばれていたのだ。ま,雑学。

ジェイコブス・ラダー PIBF-1160
発売元(株)パイオニアLDC