キングコングの墜落と最後のコメント

■キングコング■

モンスター映画の原点ともいうべきあの「キングコング」だが,オリジナル版を見た人は少なくなりつつある。と思う。なにしろ1933年作だ。ゴジラより21も年上である。しかし,さぞ古ぼけた映像だろうと思いきや,LDで入手できるその映像は驚くべきものだ。

60余年前の特殊効果マンたちの腕前は見事なものである。

何がすばらしいと言ってコングの表情がもう感涙ものだ。たとえコマどりの人形アニメーション技術が現代のハイテクに及ばなくても,人形に演技を付けるそのセンスは最先端のSFXアーティストにもなかなかマネのできないレベルである。これは技術ではなく感性や才能の問題なのだろう。

あまりに有名な話なのであえてネタバレの禁を犯すが,コングは人間たちに追われてエンパイア・ステート・ビルの頂上へ登る。その手にはフェイ・レイ扮するヒロインのアンが捕らえられているが,彼女の救出のため人間たちは当時の最新兵器である飛行機(もちろん複葉機だよん)の編隊でコングに戦いを挑む。やがてコングは力尽きて地上に落下するのであるが,その前後のコングの表情が実にもう絶品だ。

サイド2の44分20秒あたりから戦闘機隊とコングの戦いが始まる。最初はパワーにまかせて戦っていたコングもマシンガンの掃射を受けて少しずつ傷ついていく。傷口の血を見て「あれっ」という表情をするのが印象的だ。46分あたりである。徐々にダメージが大きくなり苦しそうな表情に変わっていくのだが,ここは本当に痛そうな顔をしている。

ついにこらえきれずにビルの頂上から落下する寸前の悲しそうな顔がなんともいえず,ここにいたって観客は人間とコングと果たしてどちらが罪深い存在か卒然と悟るのである。47分20秒だ。ううう。

ラストにひとつ意味深なセリフがある。

キングコングは美女と野獣「Beauty and the Beast」の物語でもあるのだが,物語のラスト,息絶えたコングの前で登場人物の一人はこうつぶやく。「Beauty kill the Beast」(美女が野獣を殺した)

コングの中にどのような感情が生まれていたかは知る由もないが,ヒロインに対するその思いが結局はコング自身を亡ぼすことになったわけで,これもまた美女と野獣の悲しい神話のひとつなのである。その詳しい経緯は本編を見るべし。

オリジナル完全版 キングコング PILF-2031
発売元(株)パイオニアLDC