巨大松坂慶子

■さくや妖怪伝■

特撮時代劇というのは昔はそれなりに作られていたものだが,最近はなかなかお目にかかることがない。日本の映画界に昔のような余力がない今では仕方のないことかもしれないが,東映の忍者ものや大映の妖怪シリーズ,あるいは「大魔神」などで楽しませてもらった世代としてはちょっぴり残念に思っている。

「さくや妖怪伝」はそんな状況の西暦2000年に登場した久々の本格的な特撮時代劇だ。日本征服をもくろむ妖怪たちと美少女剣士の対決というまことに今風のお話である。ヒロインのきりっとした構えはなかなか見栄えがよい。

個人的には原口監督の演出や演技陣(特にセリフ)にキレというかメリハリのなさが感じられて作劇としては満足できないのだが,クライマックスの大特撮大会ぶりが実に見事で楽しませてもらった。途中までは「……こういう映画なのか?」とかなり不安な気持ちだったのだが。

で,何がよいといってこれはもう敵の女王役松坂慶子の暴れっぷりにつきる。キャリアのある女優さんだけに吹っ切れ方が違う。いかに可愛いヒロインといえどもこの迫力と美の暴力の前には印象が薄くなってしまうのだ。他の演技陣がどうもぼそぼそとした感じでいまいち「立って」ないなあと思う中,この圧倒的な妖怪女王ぶりはご立派のひと言である。

特に彼女扮する土蜘蛛の女王が巨大化してからがすばらしい。DVDでチャプター21の63分35秒あたりから先を見ていただければ納得してもらえるだろう。ここから先はもう怪獣映画そのものなんだが,ベテランの美人女優がここまではりきって?モンスター役を演じてくれていること(しかも自分の顔を出して)がとてもうれしい。

僕は今までさして興味のなかったこの人のプロ根性を目の当たりにして驚き,かつ感激してしまった。

しかもこの巨大化したときの彼女は大怪獣そのものでありながら人間サイズの時よりさらに美しいのである。パンク風のメイクがとおっっっってもよく似合っている。モンスターでありながら女優の美しさを損なわないこの造形はたいしたものだ。当の彼女にしても女優として新しい顔をひとつ手に入れたのではなかろうか。

「マトリックス」や平成ガメラシリーズ以降に登場させるからには下手な映像ではしらけてしまうところだが,さすがに樋口特撮は立派な仕事をしている。しかしそれもこの松坂慶子の思い切った快演に力づけられている部分が少なからずある,と書いてもバチは当たるまい。

巨大松坂慶子,まことにあっぱれである。感服。

さくや妖怪伝 DL-18765
発売元(株)ワーナー・ホーム・ビデオ