カメの背中の友引町

■うる星やつら2/ビューティフル・ドリーマー■

振り返ってみると1984年はアニメ界にとって特別な年だった。今や世界に冠たる宮崎アニメの代表作「風の谷のナウシカ」とマニア好みの逸品「うる星やつら2/ビューティフル・ドリーマー」の2大傑作が相次いで登場したからである。

「ビューティフル・ドリーマー」はテレビシリーズでたびたび作家性バリバリの暴走を重ねてきた押井守監督の記念碑的作品だ。メジャーな人気のナウシカに対して評論好きな連中のディープな愛情?を一身に集めることになった異色作でもある。

原作の持ち味は劇場用第1作の「オンリー・ユー」の方に色濃く現れていると思うが,たとえ世界観のニュアンスみたいなものが原作から離れていようとも,見ているこちらを引きずり込んでしまうところが凄い。

高橋留美子の原作シリーズはその後のアニメ/コミック界にたいへんな影響力を及ぼしたとてつもなくパワーのある名作だが,それに引きずられずに独自の世界を生み出した押井監督の力もまた半端ではない。今見てもそのスリリングな魅力はいささかも減じていないからだ。

僕は前半のミステリアスで不条理な展開がゾクゾクするほど好きなのだが,その緊張がピークに達する例のシーン,登場人物たちが「世界」の正体を見てしまうあの巨大なカメの背中の場面が忘れられない。

世界はカメの背の上に乗っている。この古代からの世界観とキュートなアニメのキャラクターたちの取り合わせがこれほどインパクトのあるシーンになるというのが驚きだった。

LDではサイド1チャプター13の49分40秒あたりから。ここは音楽の威力もすばらしく,雑誌で事前にこのシーンを知っていたにもかかわらずどどーんとセンス・オブ・ワンダーの衝撃波をくらった名場面である。

「うる星やつら」の世界では異端に近い作品でありながら不朽の名作になっている本作。コレクターなら持っていないことを恥じるべき超定番。もちろん持っているだけではダメだ。どっぷりひたってこその傑作である。

うる星やつら2/ビューティフル・ドリーマー TLL-2189
発売元(株)東宝