開かずの間の幽霊

■回路■

ホラー映画はやはり深夜の視聴が怖くていい。大きな音が出せなくても逆にヘッドホンでひたりきっているとトイレに立つにもため息が出る。まあ血がドバドバ出てクリーチャーが暴れ回るようなにぎやかな作品ではそれほどでもないけどね。何かわけの分からない恐怖というのが僕の好みだ。

黒沢清監督の一連のホラー作品はそういう意味ではクセになる。自分の嗜好にドンピシャというわけではないのについ新作が出るたびに見てしまう。名前だけで次回作が期待できる監督というのは貴重だ。

今年2001年の新作「回路」はネットスリラーなどとキャッチがついていたが,インターネット云々は別にしてもかなり怖い幽霊譚であった。不気味で不安でショッキング,しかもろくに血も流れないのにだんだん追いつめられていくような恐怖がある。こちらの世界を浸食し始めたゴーストたちの怖さ!

この映画では幽霊と遭遇する怖さが「さもあろう」という感じで印象的だ。特に序盤で「開かずの間」に踏み込んだ若い男が女の幽霊に遭遇するシーン,これは怖い。暗い壁際に現れた女が一歩一歩ゆっくりと近づいてくる。それだけでも怖いのだが,この女が途中でがくっとよろけるのである。幽霊がよろけるというのも変だが,その様子がこの世のものでない雰囲気を放っていて恐ろしい。

DVDではチャプター5の27分23秒あたり。暗がりでこれと遭遇したらたいていの人間は腰を抜かしそうだ。かなり暗めの映像なので輝度やコントラストの調整をきちんとしていないと暗部に紛れてしまってよく見えない。しかし見えたら見えたで怖い話が苦手という人など悪夢にうなされそうなシーンである。

他にもどきんとするシーがあちこちに登場するので目が離せない。昔の恐怖映画の音楽が生まれ変わってきたようなBGMがしっかり煽ってくれるので,怖い場面は身構えてじっくり没入しよう。飛び降り自殺のところなどあっけなさがかえって衝撃だった。

そして終幕の廃墟と化した東京の様子など,出口のない絶望的な様相にもまた変に魅かれてしまう。生に執着し異変から逃げながら,あちら側……あの景色の中に戻りたいという心のささやきも聞こえてきそうな風景なのである。荒廃した景色に妙に心騒ぐものがあるというのも人間の危うさであろうか。

ちなみにメイキングの「ゴースト・マップ」のメニュー画面をしばらくそのままにしておくとメニューにない選択肢が現れる。ふと見ると勝手に画面が切り替わったのでちょっと驚いてしまった。深夜だったのでなおさら。ここで何の説明もなく作中の幽霊サイトの映像に切り替わったら相当怖かったろうな。悪趣味か。

回路 KWDV-12
発売元(株)大映/クロックワークス/パイオニアLDC