シクラメンのかほり

■小椋佳の世界/NHK特集名作100選■

まだLDが元気だった時代,時々中古セールなどで探し回ったのがドキュメンタリーなど映像ライブラリ系の掘り出し物だ。映画とはまた違った好奇心をくすぐり,じっくり読書するときのような面白さがあったからだ。

「NHK特集名作100選 創造の世界編」はそうして見つけたお宝のひとつだ。名作ドキュメンタリーの宝庫であったNHK特集という番組の中から厳選されたコレクションである。5枚組ボックス(10本収録)なのに格安だった。これを見つけたときは内心「やたっっっ」と叫んだね。いやー中古セールはまめにのぞいてみるものだ。

何しろ名作ぞろいのこの番組の中でも伝説的な「わが青春のトキワ荘」「ジョバンニの銀河・1983」「ショパンコンクール」といったタイトルがごそっと収められていたのだ。まさに宝の山である。誰だか知らないがよくぞ手放してくれた,いや,これこそオレの手元に来る運命だったのだ,などとひとしきり興奮したものである。

そしてこのセットには更にもうひとつ懐かしいタイトルが収められていた。それが「小椋佳の世界」である。1976年秋ころに放送されたものだ。

数々の名曲を提供していながらほとんど表に出てこなかったシンガーソングライター小椋佳が,初めて人前に出てライブをやったときの記録である。彼がこうしてコンサートをやるのは最初で最後だろうと思われていたので当時たいへん話題になった。僕もリアルタイムでこの放送を見たひとりである。

コンサートのシーンもさることながら,ドキュメンタリーであるから彼の日常やこの企画の舞台裏を描いた部分(文字どおりの楽屋裏のシーンもある)がとても面白い。今風にいえばメイキング部分なのかな。現役銀行員だった彼が,リハーサルのため上司に早退を告げるシーンや,コンサートに備えて体力をつけるため早朝ランニングする姿など,普通のアーティストのイメージとは全然違う光景がいろいろ出てくる。

今見ると画面の切り替えや字幕の入れ方がやけにあか抜けないのであれれ,と思ったりもする。なんだか素人のホームビデオみたいなところがあるのだ。天下のNHKでも昔はこうだったのかなあ。ははは。

名曲「シクラメンのかほり」はサイド5チャプター5の32分33秒あたりから。かほりって奥さんの名前(佳穂里さん)だったのね,なんてこともこれを見て気がついたくらいで,僕は小椋佳のことを今でもろくに知らない。それでもこのドキュメンタリーを見ていると当時のことを思い出してあれこれ考えている自分に気がつく。

彼の朴訥で誠実な,そして深みのある言葉は素直に聞ける。こういう記録こそ名作ライブラリの名にふさわしいと誰もが納得できる逸品だ。

NHK特集名作100選 創造の世界編 PCLP-00150
発売元(株)ポニーキャニオン/NHKソフトウェア